◇トラブルの中で相手を気遣う

 天才ギャグ漫画家の赤塚不二夫には、こんなエピソードがある。赤塚不二夫が締切前日に描き上げた『天才バカボン』の原稿を、担当編集者がタクシーに置き忘れて紛失してしまった。ところが、赤塚不二夫は顔面蒼白で戻ってきた編集者を怒りもせず、「ネームがあるからまた描ける」と声をかけた。さらに続けた言葉はどのようなものだったのか。

 その言葉とは、「まだ少し時間がある。呑みに行こう」だ。編集者と酒を飲んでから同じ話を描き上げて、「2度目だから、もっとうまく描けたよ」といったという。編集者に託された原稿は無事に印刷所へわたった。

 誰かが失敗したときに相手を気遣うことができる。そんな本当の優しさを持つ赤塚不二夫の葬儀には、1200人もの参列者が訪れたそうだ。仕事に完璧さを求めてばかりだと、誰かがミスをしたときに責めてしまう。そんなときに相手を思いやれる人こそが器の大きい人なのだ。

◆一流の人の気遣い
◇究極のサービスは観察から

 お客様に究極のおもてなしをする帝国ホテルには、「オールドインペリアルバー」というバーがある。そこのバーテンダーは、1杯目のグラスを、お客様が手に取りやすいように右斜め前に置くそうだ。では2杯目のグラスはどこに置くのだろうか。

 答えは「お客様が自分で移動した、1杯目のグラスの位置」である。お客様は注文したグラスを差し出されると手元に移動させる。それがお客様にとってちょうど良い場所である。バーテンダーはそれを観察しておき、2杯目のグラスをそっとその場所に置く。だからお客様は心地よさを感じる。

 マニュアル化は均一のサービスを提供する上では有効だが、お客様が感動するのは個々にカスタマイズされたサービスである。究極のおもてなしでは観察力が肝になる。

◇惜しげもなく助け合う精神

 マグロ船の船長には非常に重要な任務がある。マグロ船といえば、遠洋の魚場で1日17時間もの肉体労働が20日間続くこともあるほどの、超ハードな仕事である。人手は多いに越したことはないが、船長はその重要任務ゆえに漁に参加しない。その任務はいったい何なのか。