上客向けカジノルーム「貴賓庁」運営で稼いでいた

 ところで、マカオではカジノ経営はマカオ政府のライセンス発給制度の下で行われている。現在そのライセンスを持っているカジノ経営者は、初代「カジノ王」の故スタンレー・ホー氏が設立したSJM(澳門博彩)、ウィン・マカオ(永利)、ギャラクシーカジノ(銀河)の3地元資本に加え、米国のラスベガス・サンズ、同MGMグランド、さらにマカオとオーストラリアの合弁「新濠」(経営者はスタンレー・ホーの息子)の6社である。

 ご覧の通り、太陽城集団はこの6つの中にはない。太陽城集団のカジノ運営はこれら6社とは別の「カジノ仲介」といわれる業務スタイルで、6社のうち主にマカオ資本カジノと契約を結んで、そのカジノの一角や傘下のホテルなどで賭場ホールを運営するというものだった。売り上げの一部をライセンス所有カジノに上納するが、すべて独立採算制で顧客の誘致も自分たちが担当する。ライセンスカジノ側とは「持ちつ持たれつ」の関係をとる。

 太陽城集団はこのカジノ仲介で、上客向けカジノルーム「貴賓庁」を運営しており、その顧客のほとんどは中国人だ。そこでは、資金を貸し付けてギャンブルを楽しませる「ジャンケット」という業務を展開していた。負けて負債を抱え込んだ顧客を「株主」や「会員」という名称で招き入れて、新規会員誘致の任務を与えた。つまり、借金と引き換えに自分の貴賓庁を売り込ませるのだ。その結果、太陽城集団貴賓庁は中国国内に「株主」約200人、「会員」8万人を抱えるまでに成長したとされる。

 同時にフィリピンやカンボジアで取得したカジノライセンスを利用して、オンラインカジノを展開。オンラインカジノなら貴賓庁内だけではなく、中国国内にいながらにして顧客はギャンブルを楽しむことができた。だが、マカオでは他国のカジノライセンスを利用した営業は禁じられており、これがマカオでの逮捕の直接の理由となった。

 さらに中国国内の報道によると、その「貴賓庁」と「オンラインカジノ」ビジネスでは、周CEO個人が所有する金融会社を通じて金銭の貸し借りをする形で、顧客たちの賭け金の一部を暗に海外資産へと転換、海外持ち出しが図られていたという。温州市当局の逮捕状はこの容疑に対するもので、先の声明によるとすでに中国国内で「業務を展開」していた周CEO傘下の金融会社の関係者ら11人が逮捕されている。

「カジノ仲介」ビジネスは故スタンレー・ホーが考案し、1980年代に始まった。同時に彼は政府に働きかけて、万が一仲介事業者と顧客との間にトラブルが発生しても両者間の問題とみなし、ライセンスカジノ事業者に波及することはないとする法律も制定されている。つまり、周CEOが逮捕されても彼と契約を結んでいた大手カジノ運営者が連座させられてその法的責任を問われることはないことになっている。

 事件後に太陽城集団は貴賓庁業務の全面中止を発表したが、影響はそれだけにとどまらなかった。その他の仲介業者や大手カジノがそれぞれ運営していた貴賓庁も、その後業務の一時中止に追い込まれている。