日本では、キャリア官僚は省庁で新卒一括採用される。「年功序列」「終身雇用」で、同じ省庁で退官するまで勤め続ける。その間、さまざまな部署をローテーションで経験し、ジェネラリストになっていく。

「政策」は、省庁内で対応可能な範囲内で立案されることになる。現在ある組織を前提にして、その枠を超える政策は作られない。他の省庁との協力も拒否する。複雑な問題は、「先送り」することになる(第183回)。

 その端的な事例が、待機児童問題の解決策だった「幼保一体化」だ。厚生労働省の管轄する保育園と、文部科学省が管轄する幼稚園を一体化しようとしたが、厚労省と文科省の「縦割り」を打破することができず、待機児童問題の解決は「先送り」され続けている(第128回)。日本の行政では、適切な政策の実現よりも、各省庁の組織防衛が優先されるということだ。

 一方、海外の官僚組織では、組織防衛よりも「政策」が優先される。既存の省庁で対応できない新しい政策課題は、新しい役所を設置し、専門的な人材を集めて政策立案をするのだ(第156回・p3)。

 例えば、英国が2016年に「EU離脱」を決定した時、テリーザ・メイ首相が就任直後に、「EU離脱省」という新たな役所の設置を決断して、EUとの離脱交渉に臨むことにした。EU離脱によって生じる複雑な課題を、既存の省庁が個別に交渉するのではなく、新しい役所を設置し、専門家を新たに雇用して対応したのだ。

コロナ禍で明らかになった日本の遅れ、根本に「先送り」

 現在の、コロナ禍で明らかになった「デジタル化の遅れ」などの問題も、省庁、民間企業、政界で問題に真剣に取り組まず「やったふり」をして、解決を「先送り」し続けた結果ではないだろうか。

「デジタル庁」がようやく発足し、自民党は胸を張っているが、デジタル化は欧米から20年は遅れているのが現実だ(第202回)。

 コロナ対策も問題だらけである。基本的に、コロナ対策を動かしているのは厚労省だ。政府の専門家会議、厚労省のアドバイザリーボードなど「審議会」に招集された御用学者は、省庁が決めた政策に「お墨付き」を与える存在でしかない。

 だから、御用学者とは、現在世界の最先端の研究に取り組む若手ではない。すでに、第一線から引退状態の重鎮だ。彼らが「権威」として審議会に呼ばれ、政策に「お墨付き」を与え、省庁は政策の「正当性」を得る。

 御用学者も、厚労省の官僚も、「学歴社会」「年功序列」「終身雇用」の日本社会の頂点に君臨する存在だ。その結果、コロナ対策は、「やったふり」「先送り」「縦割り」「組織防衛」ばかりの混乱状態となり、国民を不安に陥れた。