それは、コーチが尋ねるまでもなく、コーチングの相手(クライアント)自身が「自分が何を目指すべきか(=ゴール)」を理解していて、「そのゴールの実現に向けて何を優先して行えばいいか」という答えを見出し、「そのことによる他人への影響(アウトカム:outcome)」まで認識できている状態だからです。

誰にでも「コーチ」が必要な理由

 そのような状態に至るまでのステップは次の4つに分けることができ、これらは「コーチのサポートによって起こしたいクライアントの変化」という捉え方もできます。

(1)自分と自分の状況を認識すること
(2)自分が置かれている環境を認識すること
(3)自分には選択肢があることを自覚すること
(4)選択したことに対する責任と自分が与える影響を考えること

 さてここで、素朴な疑問がわいてくるはずです。

「自分で答えを出すことができるのであれば、コーチは必要ないのでは?」と。

 コーチングの世界では、コーチングを受ける人がコーチのサポートを積極的に受け入れるだけでなく、より適切な答えにたどり着くようにコーチからのサポートを積極的に求め、変わることができる状態のことを「コーチャブル」と表現します。最高のコーチングセッションのクライアントは、まさにコーチャブル。要は、コーチャブルな人とのセッションであれば、必ずよいコーチングになります。

 ただし、常にコーチャブルであり続けるというのは、口で言うほどには簡単ではありません。誰しも経験があることだと思いますが、調子がいい時もあれば、悪い時もある、というのが人間です。

 それに私たち人間は、従来の習慣を維持しようとする側面を持ち合わせています。生物学の用語で、外部の環境が変化しても体温などを一定に保つ機能のことを「ホメオスタシス(homeostasis:恒常性)」と言いますが、心理的な安定を求める傾向も一種のホメオスタシスと言っていいと僕は思っています。

 つまり、人間の「変わりたくない」という側面はあって当たり前なのです。変わってばかりでは不安定で、落ち着いた生活が送れなくなってしまいます。でも、だからといって、ずっと「変わりたくない」では、いつまでたっても成長しませんし、それこそ周りの環境の変化から取り残されてしまいます。

 人間は、もともと「変わりたくない」存在でもあるけれども、生きていくには「変わらなくてはならない」存在でもある。人間はそんな矛盾した存在だからこそ、「コーチ」のような存在が必要なのです。

AERA dot.より転載