「国潮」が中国国内でブーム、愛国心の行く末

 このように日本もかつて多くの人が「普通に考えたらアメリカと戦争なんかするわけないだろ」と思いながら、気がついたら真珠湾攻撃に踏み切っていた。戦後、昭和天皇は「私も随分、軍部と戦ったけれど勢いがああなった」(初代宮内庁長官・田島道治の「拝謁記」より)と振り返った。「半導体」をはじめとしたさまざまな西側の包囲網で追い込まれている中国も、「勢い」で台湾侵攻に踏み切る可能性はゼロではない。

 日本を無謀な戦争へ踏み切らせた「過度なナショナリズム」も中国で台頭しつつあるからだ。中国ではかつて日本の製品や海外ブランドが人気だったが今、「国潮」と呼ばれる国産ブームが起きている。昨年中国で最もヒットしたのは、朝鮮戦争を扱った「愛国映画」である。

 この愛国心を中国共産党も利用しようと躍起だ。昨年末には河南省など少なくとも六つの省・自治区の小中学校で、クリスマスイベントの中止が呼びかけられた。

「宗教的な色彩を強く帯びた西側の祝日」「我が国の伝統文化に打撃を与えている」(読売新聞オンライン21年12月25日)からだという。こういう排外ムードも対米戦争直前の日本と瓜二つだ。

 日本にとって中国は最大の貿易国だ。しかも、日系企業の海外拠点数は世界で最も多い。アメリカ同様、日本も中国とは切っても切れない関係だ。

 それなのに「中国と国交を断絶せよ!」「日本企業は今すぐ中国から撤退を!」と叫ぶ人が一定数いらっしゃる。たしかにナショナリズムは国民にとって必要だ。しかし、「過度なナショナリズム」は人々の目を曇らせて、現実を見えなくてさせてしまう。

 同じ現象は、中国やアメリカでも起きるはずだ。かつて「経済安全保障」に失敗して国を滅ぼしかけた日本だからこそできる、米中関係を取り持つ役割があるのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)