火山津波発生四つのメカニズム
日本の災害は山体崩壊が多い

 火山活動によって津波が生じるメカニズムは、以下の図1のように主に4パターンある。

 先述した島原大変肥後迷惑などの日本の火山津波災害はいずれも、火山活動によって山体が崩壊し、岩屑流が海へと流れ込んだことが原因だ〈図1(a)〉。

 一方で今回のフンガトンガ・フンガハアパイ火山噴火では、明瞭な大規模山体崩壊は認められていない。まだよく分かっていないことも多いのだが、今回の津波発生のメカニズムは、現時点では図1(b)~(d)のようなものだと考えられる。

 大規模な噴煙が立ち上がった後に、重力バランスが崩れて噴煙柱が崩壊する。これにより大規模な火砕流が発生して海へ突っ込むと、津波が発生する可能性がある〈図1(b)〉。

 また多量のマグマが噴出した結果、海底にカルデラが形成され、この陥没を伴う海底地盤変動に伴って津波が引き起こされる可能性がある〈図1(c)〉。

 さらには、噴火によって発生した衝撃波が伝播(でんぱ)して海面を押し、波が隆起した際に共鳴現象を起こして重ね合わされると、津波になる可能性がある〈図1(d)〉。

 今回の津波が到達する前に、環太平洋域を中心に気圧変化が観測された。

 日本でも2ヘクトパスカル程度の気圧変化が、太平洋側から日本海側へと同心円状に広がったことが観測され、その後に津波が到達した。

 また、今回の津波の周期は、海底地殻変動を伴う場合に比べて短い。

 これらのことから、図1(d)のメカニズムが働いた可能性は高い。今後、フンガトンガ・フンガハアパイ火山周辺での調査結果が明らかになれば、残る(b)や(c)のメカニズムの評価もできるであろう。

日本とトンガで酷似する地勢
海域火山が多い日本でも要注意

 今回大噴火を起こしたフンガトンガ・フンガハアパイ火山は、太平洋プレートがトンガ・ケルマディック海溝からオーストラリアプレートの下へ沈み込んで形成された火山列の一部だ。火山列は陸域のニュージーランド北東からケルマディック諸島をへてトンガ諸島へと連なる。

 実はこの地勢は、図2に示すように日本列島、特に伊豆・小笠原・マリアナ諸島と酷似している。

トンガと日本の地勢「共通点」、大規模噴火を“他山の石”とせよトンガと日本の周辺の地勢は酷似している。太平洋プレートが海溝へと沈み込み、海洋地殻の上に火山列島(海洋島弧)を形成する。これらの火山はマグマの性質から大規模噴火を引き起こすことも多い Map data:Google拡大画像表示

 まず同じ太平洋プレートが、ほぼ同じ速さで沈み込んでいる。そして、このプレートの沈み込みによって作られる火山列は、地球の海底の大部分を占める「海洋地殻」の上に造られている。

 このような火山列島は「海洋島弧」と呼ばれ、例えば東北日本やニュージーランド、南米・アンデス山脈のように立派な「大陸地殻」上の火山と比較すると、火山そのものが大きい。さらに噴出するマグマは、二酸化ケイ素含有量が50%前後の玄武岩と70%前後の「流紋岩質」のものが多い。

 そして、この流紋岩質マグマの活動が大規模噴火を引き起こし、カルデラを形成することも多い。やがて、フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴出物についても詳細が明らかになるであろう。

 日本列島では今から7300年前、今回の噴火の二けた程度も大きなエネルギーの放出した超巨大噴火が鬼界海底カルデラ火山で起きた。

 この際、カルデラの形成や火砕流の海中への流入により発生した巨大津波は、近隣沿岸域のみならず現在の大分県や高知県、さらには三重県までを襲ったのだ。

 島国であるがゆえに活火山の3分の1が海域に分布するわが国では、8000km離れた地で起きた海底火山の噴火やそれに伴う現象を他山の石として、火山大国に暮らすことを改めて認識し、観測強化や減災活動を行うべきである。

 加えて、陸域の火山で大規模噴火が起きることも自然の摂理である。一つ一つの火山は独立した活動を行っているので、噴火が連動することはあり得ない。

 だから、余計な不安にかられることなく、冷静に火山噴火、特に大規模~巨大噴火への備えを進めるべきであろう。