――伝統製法で造り続けてきたかいがありましたね。

加藤 戦後は、安価なみりんやみりん風調味料に押されて、弊社の高価なみりんは売れなくなり、明治期から造り始めた日本酒が主力の時期もありました。

 しかしみりんに原点回帰し、料亭や食品加工会社に営業したり、直販を始めたりしました。すると、食材だけでなく調味料にもこだわる流れが起こり、それを機に、料理人の方が弊社に勉強に来られるように。その料理人さんたちが「白扇のみりんを使っている」とお客さまに広めてくださったことで、一般にも広がっていったのです。

――経営は順調のように見えます。

加藤 販路が分散されているので新型コロナウイルスの影響は軽微でしたが、さらに売り上げを安定させるために、一般のお客さまのファンを増やしたいと考え、新しい取り組みを進めています。

 その一つが、お客さまに気軽に遊びに来ていただけるよう、本社の蔵を改装したことです。これまでは売店スペースが狭く、買いづらかったので、蔵の1階を広々とした店舗に造り変えました。

 着工直前に新型コロナウイルスの感染が拡大したため、工事をやめるべきだという声もありましたが、断行しました。調子が悪いときこそ攻めの投資をしないと、経営が後ろ向きになり、従業員のモチベーションが下がると考えたからです。

――攻めたのは吉と出ましたか?

加藤 大きく当たり、蔵に来店されるお客さまが大幅に増えました。売り場が広くなったので、密を避けてゆっくり買い物ができる安心感もあったのでしょう。

 日本酒の新商品を開発したこともプラスに働いたと思います。2020年までは「花美蔵」というブランドの酒を造っていたのですが、かつての日本酒ブランドである「黒松白扇」を蔵のオープンと同時に復活させたのです。時代に合わせた味でなければ受け入れられないと、30代の杜氏を抜てきして、すっきり飲みやすい酒を造りました。タンクからお酒をつぐ量り売りを取り入れたことも、お客さまに楽しんでいただいているようです。

――今後も新たな取り組みを?

伝統製法で造った「飲めるみりん」が人気、コロナ禍だからこそ攻めの経営訪れる人たちがゆったり買い物できる、蔵を改装したショップ
●白扇酒造 株式会社 事業内容/酒類製造・販売、従業員数/25人、所在地岐阜県加茂郡川辺町中川辺28、電話/0574-53-2508、URL/hakusenshuzou.jp

加藤 蔵に来られるお客さまにより楽しんでいただけるよう、飲食スペースを設けたり、新商品を増やしたりしたいと考えています。「発酵のプロ」として、同じ発酵食品である味噌や醤油なども研究し、造り出していきたいですね。子どもたちに対する食育イベントなども検討中です。

 今後、設備投資も必要になるかもしれませんが、日頃融資を受けたりお客さまをご紹介していただいたりしている東濃信用金庫さんに相談したところ、「いつでも前向きに検討します」と言ってくださっているので心強いです。これからもお客さまに喜んでいただくためのチャレンジを果敢にしていきます。

(取材・文/杉山直隆、「しんきん経営情報」2022年2月号掲載、協力/東濃信用金庫