アルゼンチンは19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落した国家として知られる。農産物の輸出で成長したが、工業化の波に乗り遅れ、急速に輸出競争力を失ったことがその要因だ。国民生活が豊かになったことで、高額年金を求める声が大きくなり、社会保障費が増大したことも衰退につながった。時代背景は違うが、似た現象が起きているのが現代の日本である。IT化の波に乗り遅れ、工業製品の輸出力が衰退しているにもかかわらず、社会は現状維持を強く望んでいる。この状況が続けば、アルゼンチンの二の舞いになっても不思議ではない。(経済評論家 加谷珪一)
かつて対照的な立場にあった
日本とアルゼンチンだが…
このところ、「日本が先進国の地位から脱落するのではないか」との指摘をよく耳にするようになってきた。数年前からこの問題に警鐘を鳴らし続けてきた筆者としては、世間が現状を正しく認識するようになったことは高く評価できる。
だが、国家が一度落ちた経済力を復活させるのは極めて難しいのも事実であり、日本はまさに転落の瀬戸際にある。先進国の地位から脱落した国がどうなってしまうのか、唯一の先例であるアルゼンチンを参考に考察してみたい。
社会の近代化が急速に進んだ19世紀以降、先進国として豊かな社会を形成していた国がその地位を失うケースは極めて珍しい。
近代資本主義社会は先行者に圧倒的に有利なシステムであり、欧米を中心に一足先に近代化を実現した国は当初から豊かで、その後も豊かな社会を持続している。後発の国はなかなか豊かになれず、先行した国が脱落することもなかった。
だが、この常識に当てはまらない国が世界に2つだけある。それが日本とアルゼンチンである。
景気循環論で有名なノーベル賞経済学者サイモン・クズネッツは「世界には4つの国がある。先進国と途上国、そして日本とアルゼンチンだ」とジョークを飛ばしたといわれる。アルゼンチンの衰退と日本の成長が異例という意味だが、今では皮肉なことに、後述する理由によって、日本がアルゼンチンに続いて衰退しようとしている。