社会的背景も注目される17歳のカイ・オーウェンスさん

 北京五輪の舞台に登場したアスリートのなかで、中国国内と海外中国人社会で熱く注目されている2人がいる。

 一人は17歳のカイ・オーウェンスさんだ。彼女は生まれて間もなく中国内陸部の安徽省六安市の街中に捨てられ、地元の養護施設に収容された。報道によると、1歳4カ月の時、米コロラド州に暮らす夫妻に引き取られ、両親の影響でスキーに親しんだ。14歳の時、北米の大会で米国人最年少として優勝。昨年、国際スキー連盟(FIS)の新人賞にも選ばれた。

 私は、安徽省の観光大使を数年間務めたことがある。その期間中に農業を主要産業とする六安市を訪問したこともある。それだけに、カイ・オーウェンスさんのことに人一倍関心を持っている。関心を持つ、もう一つの理由もある。

 一人っ子政策時代、中国地方、特に農村部では、生まれたばかりの子どもが見捨てられる事件が多発していた。これらの子どもの一部はのちに米国人に引き取られ、育てられた。米国に移住した上海外国語大学時代の親しい元同僚がこうした事情を知ってから、米国人養父母支援事業を手伝うようになった。また、私の娘が米国に留学した時、私も娘に電話応対など元同僚の雑務を手伝うように勧めた。米国で育ったこれらの子どものなかの一人として、カイ・オーウェンスさんは今度、米国代表として北京五輪の舞台に立つ。だから、その彼女を応援しないと気がすまない。

中国に帰化した大人気のスキーヤー、谷愛凌

 もう一人は、中国に帰化した大人気のスキーヤー・谷愛凌(アイリーン・グー)さんだ。2月8日、フリースタイルスキー女子ビッグエア決勝が行われ、五輪初出場のアイリーンさんが初代女王に輝いた。

 最近、中国でもっとも話題を集めている中国人女性アスリートといえば、彼女と中国女性サッカーチームの選手たちだ。特に、アイリーンさんはスポーツ選手として五輪の金メダリストという栄冠を手にしただけではなく、米名門校のスタンフォード大学在学中の才女でもあり、モデルとしても数十の企業との契約を確保している。北京五輪に出場する前に、ニューヨーク・タイムズに投稿した文章はとても情熱的かつ理性的で、哲学的にも示唆に富んでいる。知性、名声、美貌、金銭、若さ、さらに表現力、感受性…世間で言う幸せのすべてを、彼女は18歳にしてすでに入手したのである。

 アイリーンさんはわが家でもここ数日、ずっと話題の中心となっている。

 事の起因は、妻の3番目の兄(私にとっては義兄)がしばらく前にアイリーンさんの肖像画を描いたのだが、金メダルを手にした直後から、この絵はSNSで広く拡散された。それがアイリーンさんの親友(義兄の知り合いでもある)の目に留まり、金メダルを祝うユニークな記念品として提供を求められた。こうして、わが家でもアイリーン旋風が巻き起こったのだ。

 この原稿が掲載されたときは、北京五輪の開幕式はすでに過去の出来事になっている。大会も約半分の日程を消化していることだろう。しかし、今回のコラムで言及した人物や技術を通してみると、豊かになりつつあるにもかかわらず貧困と立ち遅れが依然として目立つ中国が透けて見えてくる。中国は複雑だ。複眼的に見ないと真の中国を把握できない。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)