幻のキノコで現実のマーケットをつくり出せ!

「幻のキノコ」とされるハナビラタケの生産体制作りに成功した大井川電機製作所だったが、販路開拓の戦略はほぼ全くの白紙だった(第1回)。そこに現れたのが、「営業力によって農家を幸せにする」という志を胸に、新たな事業を始めていた1人の青年だった。彼が道の駅でハナビラタケを偶然に目にしたことから、大井川電機製作所のキノコ事業はビジネス化に向けて大きな一歩を踏み出すことになる。キノコが呼んだ出会い―――。そのてん末はいかなるものだったのか。(フリーライター 二階堂 尚)

英国留学を経てたどり着いた「葉っぱビジネス」

 大畑悠喜氏が徳島県上勝町で「葉っぱビジネス」を手掛ける会社「いろどり」に入社したのは、2010年のことである。刺し身などの和食の「つま」となる葉、花、山菜などを地元農家から仕入れて消費地に販売するのがいろどりの基本的なビジネスモデルで、地方の高齢者や女性に活躍の機会を提供しているとして全国的に注目されてきた会社だ。

幻のキノコで現実のマーケットをつくり出せ!農家と市場をつなぐ「産地のミカタ」代表の大畑悠喜氏

 大畑氏は大学卒業後、開発途上国の発展に貢献したいと考え、それならばまず英語のスキルが必要だろうと、英国に1年間留学した。しかし、周りを見渡せば国連職員を目指すようなエリートばかりで、とても付いていけないと考え、早々に次なる道の模索を始めた。

「自分の強みは何かと考えたときに思い付いたのが、“おじいちゃん、おばあちゃんに好かれる性格”でした。英国で暮らしている中で、日本だけでなく海外の先進国でも高齢化が進んでいることを実感し、超高齢社会に貢献できる仕事に就こうと思いました。そうして求人情報に当たっているうちに、いろどりという会社を知ったわけです」

 おじいちゃん、おばあちゃんに好かれる「孫スキル」は、大畑氏のその後のキャリアで大いに役立つことになるが、それについては後述することにする。

 さて、帰国し面接を受けていろどりに入社した大畑氏の仕事は、品質管理から全国からの見学者の案内、農家の困りごとへの対応などだった。いろどりのビジネスがメディアなどで紹介されたこともあって、見学者は年間3000人にも及んだ。40代、50代という比較的若い世代がUターンして農業を始めるケースもあった。その相談に対応したのも大畑氏だ。

「個人事業主の農家のおばあちゃんが年間1000万円の売り上げを上げたという情報が伝わっていたので、それを目指して農業にチャレンジする人が一時期増えました。でも当然ですが、みんながみんな成功するわけではないんですよ。聞いていたほどもうからないということで、新規の農家さんに胸ぐらをつかまれて抗議されたこともあります」