今年4月に発刊された全512ページの大作『進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』が、クリエイターのみならず、ビジネスマンの間でも話題を呼んでいる。先日、日本を代表する学術賞の一つ、山本七平賞を受賞した。著者の太刀川英輔氏は、慶應義塾大学で建築デザインを学んでいた学生の頃から「創造性は本当に、一部の天才しか持ち得ないものなのか?」という疑問を抱いて探求を積み重ね、「生物の進化と創造性には共通の構造がある」ことを見いだした。今回はデザイナーとしても活躍する太刀川氏の実例を交えて、進化思考で発想するプロセスをたどっていってみよう。
生物進化のようにアイデアを磨くには?
こんにちは。デザインストラテジストの太刀川英輔です。生物の進化から人間の創造性の本質を学んで、誰もが発想できるようになる手法、進化思考を提唱しています。進化思考をざっくり説明すれば、生物進化と同じようにエラー的な変異と、本質的な適応の往復を思考の中で実践する思考法です。
進化思考は四つの適応の観察手法と、九つの変異的な発想法から成り立っていますが、それらの知恵をつなげて使うにはどうしたらいいのか、実例を踏まえてご紹介します。
昨年の2021年は、私たちのデザイン事務所NOSIGNER(ノザイナー)の手がけたデザインやブランディングが、いくつかの国を代表する大きなデザイン賞のグランプリを四つも受賞するうれしい年でした。それらの受賞プロジェクトを例に、進化思考でアイデアを生み、磨き込むプロセスを探求しましょう。
今回はドイツ政府が主催するジャーマンデザインアワードの金賞に輝いた、山口県のオーガニックファーム、秋川牧園のブランディングを題材にしてみましょう。