スマートフォン(スマホ)の位置情報に連動し、その場所に精通する地元住民ならではの耳より情報を、住民本人の肉声でガイドしてもらえる。あたかも地元の人々が、旅に“おとも”をしてくれているような温かみのある観光体験を提供する音声ガイドサービス、その名も「おともたび」が話題を呼んでいる。(取材・文/大沢玲子)
同サービスを提供する静岡市のОtоnоは、2018年設立。同社代表取締役社長の青木真咲氏は元新聞記者で、静岡に異動となったのを機に、この地の魅力に引かれ、そのまま移住を決意。地域活性化事業の創出を志し、起業したという。
富士山だけではない
地元の魅力を音声で伝える
「当社が位置する静岡市の世界遺産・三保松原には、富士山の眺望を求めて多くの方がいらっしゃいますが、天候の関係で富士山が見えずに、がっかりして帰途に就くケースも多い。景観だけではない歴史や伝説、地元のストーリーをいかに魅力的に伝えるか。そんな思いから旅先で得る視覚情報を邪魔することなく、気軽に聞ける音声をツールに、コンテンツの在り方を模索していきました」(青木氏)
音声ガイドは美術館など既に多くの施設で利用されているが、同社がこだわったのはスマホでQRコードを読み込むだけですぐに使え、リアルな旅の魅力を最大化すること。よって内容も、ガイドブックにあるような解説を単に読むのではなく、放送作家や声優などのクリエーターと連携したドラマ仕立ての音声ガイドサービス「Оtоnо」を開発。三保松原であれば、この地の「天女伝説」を天女が語りかけるような趣向となっている。
また、インバウンド需要の高まりを受けて多言語化を進め、市内の清水港に寄港する海外の大型客船から観光地へ向かうタクシー客が利用できる音声観光ガイド「ドライブオトノ」のサービスも開始。設備設置の手間いらずで、リリース2週間でタクシー会社20社150台超の導入が決定するなど、市場を広げていく。
さらに、AIやデジタルサイネージを活用したガイドサービスなど、観光施設でのIT・メディア事業も展開する一方、時代の流れとして団体ツアーから個人旅行への需要のシフトを見据え、周遊型で観光スポットをシームレスにつなぐような音声ガイドの開発も推進。そこで生まれたのが、21年4月に試用版、12月に正式リリースした「おともたび」だ。