コネ採用を断ったら、
本当に取引は中止される?

 D社労士が尋ねた。

「お伺いしたいのですが、甲社はどういういきさつで乙社と取引を始めたんですか?」
「乙社の専務は私の中学時代の同級生。部活が一緒で仲良くなりそれ以来の付き合いです。今から20年前、乙社を創立した際、ウチの会社と大口で取引契約を結んでくれました。乙社がこの地域最大のスーパーマーケットチェーンになったのは乙専務の功績ですし、豪快でハッキリ物を言う性格のせいもあって、乙社長は彼には頭が上がりません」
「それなら、この件を乙専務に直接話してみたらいかがですか?もし仮に甲社が乙社長の息子さんを採用しなくても、これまでの状況からしてたぶん取引をやめることはしないと思います」
「乙社長からの要求で頭の中がいっぱいだったので、そこまでは気がつきませんでした。早速、乙専務に話してみます」
「それとBさんには内定取り消しの撤回を連絡してください」

A社長は大きくうなずいた。

「ちなみに質問ですが、学生側から内定を辞退することはできますか?」

○ 内定を承諾して労働契約が成立した場合、企業だけではなく学生に対しても法的拘束力が生じると考えられる。
○ しかし民法627条により、期間の定めのない労働契約は労働者側から2週間前に申し出れば解約できることになっている。
○ さらに新卒採用の場合で見ると、実情として内定について学生への強い拘束力はないため、学生が複数の企業から内定を得ることに対して法律上問題にはされていない。ただし、内定を辞退することになった場合は、企業への影響を考慮し、対処することが必要である。

 D社労士のアドバイスを得たA社長は、その日の夜乙専務に電話で事情を説明したところ、乙専務はその場で謝罪をし、乙社長にすぐに息子の就職の件を撤回させることと、甲社との取引に変更はないことを約束した。