2015年に徴兵制度を復活したから、18カ月の兵役で訓練を受け、除隊後5年以内の予備役兵が90万人もいる。予備役を動員すれば100万人を超えるから、兵員数では侵攻したロシア軍15万人の7倍になる。

 ウクライナ政府は財政難のためソ連時代に保有していた戦車のうち新しく買い手が付く物を外国に売却したこともあり、装備はロシアと比べると貧弱だ。

 だが、ロシア軍がキエフを包囲し兵糧攻めにして降伏させるか突入して、親露政権を作ることに成功したとしても、ウクライナ国民の大多数が抗戦意欲を失わなければ、ロシアは15万人ほどの兵力でウクライナの西部までを完全に制圧し、反露派を一掃することは困難だろう。

 ゲリラ活動を制圧するには、ゲリラの数倍の兵力が必要といわれる。仮にウクライナ人の0.1%、4万3000人がゲリラ活動で抵抗を続けるとしたら、ロシアの兵力では抑えきれない。

 ソ連が崩壊した時点でソ連陸軍は140万人の兵力があったが、現在のロシア陸軍は28万人に縮小し、陸上自衛隊の2倍だ。他に空挺軍が4万5000人、海軍歩兵(海兵隊)が3万5000人いるが、それを合わせても地上戦部隊は36万人だ。

 全員を投入しても、ウクライナで親露政権の統治を確保し続けることは難しい。

 ロシアの予備役兵200万人の一部を招集してウクライナに送ろうとすれば、ロシア国民にもプーチン政権のウクライナ侵攻の失敗が明白になる。

ウクライナ支配されても長期戦に
ポーランドなどを拠点に抵抗

 仮に予備役まで召集してウクライナ全土を支配したとしても、ウクライナの反露派は隣接するポーランドやルーマニアなどに逃れてゲリラ戦を続ける公算が大きい。

 ゲリラが活動するには比較的安全な「聖域」を拠点にできることが望ましい。アフガニスタンのイスラムゲリラはソ連や米国などとの戦いで、パキスタン北部の山岳地帯を「聖域」とし、交代で休んで補給を受け、訓練し、アフガニスタンに戻って長期の戦争を戦い抜いた。

 ポーランド、ルーマニアなどのNATO諸国がウクライナ人ゲリラに拠点を与え、ゲリラが米国などからの武器を受け取っていても、ロシアがその拠点を爆撃したり、侵攻したりすることは、NATOとの大戦争を招くことになるから控えざるを得ないだろう。

 テロ活動についてもロシアは封じ込めることは難しいだろう。ウクライナの周辺諸国はテロリストが出入りし、ロシアやウクライナで活動するのを黙認するかもしれない。

 米国での9.11大規模テロ事件の後「テロは絶対悪」といわれたが、歴史的には「一方のテロリストは他方の英雄」との欧州のことわざが当たっている場合が多いのだ。

 今回のロシアによる侵攻は、ロシアに対する「武力攻撃が発生した場合」の自衛権の行使ではないし、国連安全保障理事会がロシア軍の行動を認めたわけでもない。国際法違反であることは明白だ。

 それだけでなく、ロシア自身にとってもアフガニスタンでのゲリラとの戦いに似た泥沼にはまり込む結果となりかねない最大級の「愚行」だろう。

(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)