経済制裁は事実上、不可能
ロシア国民に「西側諸国への憎悪」を植え付ける可能性も

「そんなバカな話があるわけがない!」という感じで、このシビアな現実をなかなか受け入れられない人も多いだろうが、このような指摘は、西側諸国では30年以上前からされてきた。例えば、分離独立を目指すチェチェン共和国とロシアの間で2度にわたって行われたチェチェン紛争をはじめ、世界各地で国際紛争が相次いでいた1996年、英エコノミスト誌の編集長(当時)だったビル・エモット氏はこう述べている。

「経済制裁はめったにうまくいかない。その理由は、経済制裁を執行するのが事実上、不可能だからである。国家にはあまりにも多くの通商相手があり、国境を取り締まるのはきわめて難しいし、企業は商品の原産地を制裁に参加していない国であるかのように見せかける方法を必ず案出するだろう」(読売新聞1996年10月28日)

 これは北朝鮮などを見れば納得だろう。もはや年中行事のように弾道ミサイルを連発して、その度に国際社会は批判をして、日本や米国は経済制裁に乗り出す。が、それで飢えるのは平民だけで、中国やロシアが裏で援助をしているので政治体制や軍事開発への影響はほとんどない。むしろ、「日本や米国から制裁をされた」という怒りを原動力にして、さらなる軍事力強化に乗り出している。

 一方で、このような「経済制裁の限界」があるからこそ、マックやスタバという民間企業がみんなで「連帯」して抗議をして、ロシア国民に戦争を止めてもらうように動いてもらうことが重要になってくるのだ、という意見もあるだろう。

 もちろん、それができるのなら理想的だ。しかし、ロシアという実質的にはプーチン大統領が恐怖支配をしているような専制国家において、それはロシア国民に「革命」や「内戦」をけしかけているようなものなので、かなりハードルが高い。

 また、「効果がない」くらいならまだマシで、経済制裁によってかえって事態を悪化させるというケースも少なくない。前出・エモット氏も以下のように指摘をしている。

「制裁も一定の効果を持ち得る。しかし、それはまた、制裁が逆効果となる始まりでもある。これは、一つには、制裁がある国の一般市民に痛みを与えることになると、問題の指導者を脅かすというよりは、むしろ、その国の反外国人感情を高まらせかねないからである」(同上)

 つまり、経済制裁によって痛みを与えられたロシア国民が、「プーチンの暴走を止めろ!」となるのではなく、「ウクライナからロシアに攻め込みたいNATOの嫌がらせに負けるな」という感じで、「西側諸国への憎悪」をかえって膨らませてしまうのだ。

「誰がどう見ても悪いのはプーチンなんだから、世界からどう見られているのかという正しい情報を教えてあげれば、ロシア国民も目覚めるはずだ」と反論をする人もいるだろうが、この「経済制裁による事態悪化」を誰よりも知っているのが、我々日本人だ。