白鷗大学教授で感染症専門家の岡田晴恵さんは、新型コロナウイルスの感染拡大以来、数々のテレビ番組に出演し、コロナ禍の日本に警告してきた。最新刊『秘闘―私の「コロナ戦争」全記録―』(新潮社)では、政治家や専門家の実名とともに会話の内容などが克明に書かれており、彼らがコロナ禍で右往左往するさまが分かる。怒涛の2年を経て、岡田さんが今思うこと、そしてこれからの課題を聞いた。(聞き手・構成/ダイヤモンド編集部 宝金奏恵)
コロナ初期、楽観視する専門家も
「身内」を斬るような本を書けた理由
――最新刊の中で、新型コロナウイルスは「巧妙で賢い」「これまでの常識が通じないウイルス」という言葉が出てきます。岡田さんも、この2年間、新型コロナウイルスの正体をつかむのは難しく、翻弄されたのではないでしょうか?
岡田晴恵さん 2019年の年末にSARS(02年から30カ国で感染拡大した重症急性呼吸器症候群)に似た新型ウイルスが出たと私の元に情報が入ってきました。それから、まず科学的に解明をするために世界各地から入ってくるデータを集め、国立感染症研究所で私が働いていた時代の元上司やウイルス・ワクチン・免疫学の研究者仲間、さらに現場の呼吸器内科の臨床医とも情報交換をしました。その時その時で最善と思われる対策の提言をする日々でした。
コロナ対策に関して私が言っていることは初期の頃から今でも変わらないのですが、この間、何度もバッシングや中傷がありました。政府が集めた専門家たちの楽観視により、感染拡大を防げないというミスが繰り返されました。それを正しく軌道修正しようにも、ウイルス以外の部分に強固な壁があって、どうして真っ当な方向で対策が進まないのか?と苦しみました。
例えば、なぜ検査が増えないのか?なぜ大規模集約医療施設ができないのか?診療できる医療機関の間口を広げられないかとか…。日本でも感染者数がこれだけ大きな数になって、医療にかかれない人が莫大に出ました。
――岡田さんは、感染症の専門家たちの世界を「感染症ムラ」と表現しています。その「ムラ」のトップや専門家たちは、当初コロナを楽観視していたと厳しく指摘していますが、岡田さんも、かつて感染症研究所という「感染症ムラ」にいた一人です。ある意味「身内」への批判をしているわけですが、抵抗はなかったですか?
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂先生とは以前から面識はありましたし、同じ厚生労働省の大先輩で、私には紳士的に接してくださいました。電話で普通にお話しできる仲ではあります。
私は、2020年の初めから、新型コロナは広がるだろうと焦って恐怖を覚えていました。一方、尾身先生は楽観的でした。コロナウイルスの一種であるSARSやMERS(12年に初めて確認された中東呼吸器症候群)のときも日本は大丈夫であったし、今回も大事にはならないだろうという見方をしていたと思います。
尾身先生の姿勢や行ったことを時系列で書くことに戸惑いや迷いはありました。でも、自宅療養で死亡する方が増えたり、感染した妊婦さんが10件以上の医療機関に断られて産科病院に受け入れてもらえず、自宅分娩になって新生児が死亡するという事態があったりしたのです。
また、経済もどんどん「ダメ」になっていくのを見て、国の専門家の先生方は、起こったことに対応するだけで、先回りして感染拡大を阻止する対策は提言しないのだなと思いました。パンデミック(世界的大流行)対策の基本すら無視し、今なお専門家は変わらない。この現実を多くの人に知ってもらい、後世に生かすために書き残そうと思いました。
――尾身先生をはじめ、登場する専門家などからクレームはなかったですか?