◇「ホモ・デジタリス」

 7月28日にファラの家の近くで激しい空爆が起きたことで、ファラのツイートは世界中から注目を浴びた。

 ファラは「家の近くで激しい空爆が続いてる。今回の戦争がはじまって以来、最悪の夜。いまのうちに言っておくと、今夜、わたしはいつ死んでもおかしくない。#Gaza」とツイート。これには1362回のリツイートがあった。さらに照明弾の写真とともに、「これは家のすぐ近く。涙が止まらない。今夜、わたしは死んじゃうかもしれない。#GazaUnderAttack #ICC4Irael #AJAGAZA」とツイートすると、1万5547回のリツイートがされた。ファラの「恐怖感情の吐露」というナラティブは、世界中の人々の心を打ったのだ。

 世界中から共感のツイートが、ファラのもとに殺到した。その中には海外ジャーナリストもいた。「世界は君の味方だ@Farah_Gazan。子どもを大量虐殺するイスラエルを、これほど侮蔑したことはない。#FreeGaza」――7万9400人のフォロワーを持つウィル・ブラックのツイートだ。多数のフォロワーを持つユーザーの共感を得たファラのツイートは、さらに拡散していった。

 さらに海外メディアも、ファラのツイートを取り上げ始めた。英国のタブロイド紙《デイリー・ミラー》が「16歳のパレスチナ人少女、ガザへのミサイル攻撃を自宅からライブツイート」と報じた記事は、主にファラのツイートで構成されていた。この記事を数百万人の読者が読んだ。他の主要メディアもファラを取り上げ、ファラをジャーナリスト同然に扱った。

 ガザ侵攻においてファラのツイートは、イスラエルの軍事的目標には大した影響をもたらさなかったかもしれない。しかしそれでもイスラエルは、ファラのツイートや国際社会の抗議デモを深刻に捉えた。

 ファラは「ホモ・デジタリス」の典型だと言える。ホモ・デジタリスとは、インターネットによってつながることで世界的なネットワークを築き上げ、影響力を発揮する新しいタイプの個人のことを指す。ファラはツイッターによってナラティブを発信し、ネットワークから大きな力を得ることで、戦場にすら影響を与えたのだ。