◆荒らし――帝国の逆襲
◇トロール工場

 ロシア人編集者ヴィターリ・ベスパロフは失業をキッカケに、新たな仕事を探す必要性に迫られた。そして職を探すうちに、「ウクライナ2」というプロジェクトの仕事を得た。「ウクライナ2」の仕事は簡単で、1日に20本の記事をリライトしサイトに掲載するというものだ。

 だが仕事をするうちに、ヴィターリは自分が「トロール工場(トロールは荒らしを意味する)」で働いていることに気がつく。ヴィターリが働く1階の「メディアホールディングズ部門」では、ロシアやウクライナにあるように見せかけた、10~12のウェブサイトの記事が書かれていた。また2階は「ソーシャルメディア部門」となっており、ロシア政府の対ウクライナ政策を支持する風刺漫画やミームをつくって、ソーシャルメディアで拡散していた。ウクライナ人を装ったブロガーが、ウクライナの悲惨な状況を訴える偽記事を量産していたのだ。

◇実態が明るみに出るとき

 2014年7月17日、トロール工場にとって一大事が起きた。アムステルダム発クアラルンプール行きのマレーシア航空17便が撃墜された事件だ。乗客283名と乗員15名が死亡。新ロシア派の分離主義勢力が使用した、ロシア軍部隊の地対空ミサイルが原因と判明し、国際社会から非難が湧き起こった。

 この際もトロール工場は、「航空機撃墜はウクライナの仕業だ」と主張する記事を拡散して回った。リベラルなヴィターリはトロール工場でやっていることに耐えきれなくなり、2014年末にトロール工場を退職した。その後、ヴィターリがトロール工場での体験談を匿名でメディアに寄稿すると、その記事は大きな反響を呼び、トロール工場の実態が世に知れ渡ることとなる。

【必読ポイント!】
◆個人対超大国
◇ベッドルームから戦場へ

 ウクライナ東部上空でマレーシア航空17便が撃墜されたというニュースは、英国人エリオット・ヒギンズのもとにも飛び込んできた。

 ヒギンズはもともと熱心なオンラインゲーマーで、1日12時間ゲームをすることも少なくなかった。事件が起きた当時、ヒギンズは女性用ランジェリー会社の決済チェックの仕事をしていたが、ひとつのことに熱中するという性分は、ゲーマー時代と変わっていなかった。ソーシャルメディアを熱心にあさり続け、ミサイルランチャーを積んだ軍用車両の動画を見つけた。ツイッターでその動画が撮影された場所がどこか尋ねたところ、10人から返信があり、そのうちの9人は「ウクライナ東部のスニジネで撮影されている」と指摘した。