ウクライナ侵攻で世界が混迷しても「有事の金」は強い。日本国内の金の買い取り価格は2022年3月8日、過去最高の1グラム8000円を超えた。振り返れば米中貿易摩擦が激化した18年秋も、現物の裏付けを持つ金(ゴールド)に着目した買いが動いた。当時の様子を再録し、「有事の金」と言われるゆえんを解説する。

「週刊ダイヤモンド」2018年11月3日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。
ウクライナ侵攻でも「有事の金」、国内買い取り額が過去最高を更新した背景Photo:123RF

 代表的な国際商品で、実物資産と金融商品の間を揺れ動く金(ゴールド)。利上げなどに伴う米金利上昇は利子の付かない金の逆風となり、しばらくさえない相場が続いてきた。ところが足元では、現物の裏付けを持つ「有事の金」としての顔に着目した買いが動き出している。

 きっかけは米株式相場の急落だ。金価格の国際指標となるニューヨーク市場の金先物相場は、世界的な株安局面で2018年10月11日に急騰した後、1トロイオンス1230ドル前後と、2カ月ぶりの高値水準にある。

 元をたどれば株価急落の一因は米金利の上昇であり、金価格の下げ要因となってもおかしくない。だが、「『世界経済は米国独り勝ち』の中、米株の急落が市場心理に与えた影響は大きかった」(マーケット・ストラテジィ・インスティチュートの亀井幸一郎代表)という。米中貿易戦争の長期化懸念も重なり、投資家の急激なリスク回避姿勢の高まりが、「有事の金」の追い風になったというわけだ。

 直近の金の急上昇には需給要因もある。先物市場では基本的に「買い」か「売り」の持ち高を入れた後、反対売買の決済によって損益を確定する。ファンドなど投機筋は、持続的な米利上げなどを見越して大規模なショート(売り持ち)を抱え、売り越し幅が過去最大規模にまで膨張したことで、買い戻しの勢いが大きくなった。