「テレワークが始まって3カ月、ずっと地べたにちゃぶ台で仕事をしていて腰が痛い」と言ったのは、ある日本企業の部長だ。劣悪な仕事環境を3カ月も放置する人に、良い仕事ができるだろうか。同じ口で「情報システム部が抵抗勢力のごとく立ちはだかってDXが進まない」と恨み節を言うので、(別会社だが、以前、情報システム部門で働いていた筆者としては)まずはそういう姿勢をどうにかするのが先だろうと、姿勢矯正に定評のあるオフィスチェアを紹介したのだった。

 勤勉さはもはや差別化に寄与しないとすれば、日本がデジタル社会で競争力を獲得するために必要なものは何だろうか。アメリカ、エストニア、ASEAN諸国をはじめ、国内外でセキュリティ人材育成に取り組む、Armoris CTO 鎌田敬介さんに話を聞いた。

ルワンダでのセキュリティワークショップ。左から2人目が鎌田さん Photo by Keisuke Kamataルワンダでのセキュリティワークショップ。左から2人目が鎌田さん Photo by Keisuke Kamata

DXができないと騒いでいるのは日本だけ?

酒井 18年間で42カ国を訪問し、渡航回数150回を超える鎌田さんですが、諸外国でもDXが課題となっているのでしょうか?

鎌田 アメリカで日本のDXの話をしたら、「20年前の話?」と聞かれたことがあります。アメリカの時価総額ランキングを見ると、20年前はIT企業が1社しかなかったのに、今やトップ5はほぼIT企業です。もちろんアメリカと言って一くくりにはできませんが、ITを中心に経済が動いているアメリカは、DXが進んでいるといえます。

 日本は、ITがなければ仕事にならない時代を前に、経済基盤が確立してしまいました。一方、東南アジアの新興国は、日本のように成熟した社会や会社組織がない中で、安価にいろいろなことを実現する手段としてITが活用されてきました。実益のためにIT人材を育ててきた国と、盤石な経済基盤の上に後からITが入ってきて、「文房具の延長」のように扱ってきた日本、この違いは大きいと思います。