●肝心な問題を間違えて、模擬試験で落第点。ガッカリ。同じ間違いを繰り返さないように気をつけて、本番のテストでは大成功。

●いい人そうなので、本当は信じたいのだけれど、疑ってかかる。悪い予感は的中、ブラックセールスにひっかからないで済んだ。

 このように、私たちはネガティブな感情や思考のおかげで、失敗を繰り返さなくて済んだり、より正しい決断ができたりするわけです。

 だからこそ、ネガティブな心の働きは、人間の進化の歴史の中で、私たちの脳の仕組みとして継承されてきたのです。

 実際、近年の心理学や脳科学の研究で、ネガティブな事柄に対する脳の反応の方が、ポジティブな事柄への反応よりも、断然強いことが明らかにされてきました。

 例えば、とっても幸せなディナーのひと時も、最後の不快な店員のひとことだけで、台無しなんてことも。どんなに幸せなディナーの時間が長かったとしても、最後の店員の一瞬の態度ですべてが打ち消されてしまうのです。

 そのように、ポジティブより、ネガティブな事柄に強い気持ちを感じてしまうのは、私たちの脳のもつ基本的なメカニズムによるものです。これを「ネガティビティー・バイアス」(negativity bias)と呼びます。

 だからこそ自己肯定感を持続するのが難しい。私たちの心にはネガティブに反応するようにできている。しかも、それがポジティブな心の機能よりも強く働いてしまう。

 そして、前述のように、その機能を無理に抑え込もうとしてしまうと、心に負担がかかり、体にだって悪影響が出かねない。

 それは、ネガティブに考えるのが脳の自然な機能だからです。ネガティブな気持ちを無理に押し込めようとするのはご法度です。

 自己肯定感を育てるのに必要なのは、ネガティブな気持ちを認めた上で、それらとうまいこと付き合っていこうとする心構えなのです。

 求めるべき自己肯定感は至ってシンプル。それは、現実の自分をありがたく思う気持ちです。

 この求めるべき自己肯定感の定義には2つの重要な心理学のコンセプトが組み合わされています。それは「自己受容」(self-acceptance)と「自己価値」(self-worth)です。

 どちらもこれまでの心理学研究で幸せや健康と深い関わりがあるとされ、最近では脳科学的な基礎づけも進められています。

「自己受容」とは、ポジティブな自分も、ネガティブな自分も、ありのままの自分を受け入れることで、なりたい自分や理想の自分ではなく、「現実の自分」をそのままに受け入れる力のことです。

 これまでの研究で「自己受容」ができる人は、精神的に安定していて、幸福感が高く、逆にそうでないと、ストレスが高く、うつ病のリスクも高まることがわかっています。

全米トップ校が教える自己肯定感の育て方『全米トップ校が教える自己肯定感の育て方』
星 友啓 著
定価869円
(朝日新書)

 求めるべき自己肯定感の定義2つ目。その要素は、ポジティブもネガティブも自己受容した上で、その自分に価値、つまり、「自己価値」を見つけることです。

 いわば、現実の自分を「ありがたく」思う気持ちのこと。

 例えば、このようなことです。

●仕事でトチってしまった。気分はヘコんだけど、明日からも頑張ろう。ヘコんでもすぐに立ち直れる強い自分のメンタルはありがたい。

●自分はまだまだ必要なスキルも身についていないし、成績も悪い。でも、将来の目標にもくもくと取り組む自分が誇らしい。

 このように、「自己価値」を感じていると、勉強の成績や仕事の業績も上がるという報告まであります。

 つまり、求めるべき自己肯定感は、「自己受容」と「自己価値」がベースになることがわかります。

星友啓(ほし・ともひろ)
1977年生まれ。スタンフォード 大学・オンラインハイスクール校長。哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、スタンフォード大学で哲学博士を取得。オンライン教育の世界的リーダーとして活躍。

AERA dot.より転載