“朝三暮四(ちょうさんぼし)”という言葉をご存じでしょうか。中国の春秋戦国時代、諸子百家の一人「列士」が伝える寓話(ぐうわ)です。ちなみに、この話のように人をサルにたとえるのは現在のコンプライアンス上はいささか問題があるのですが、ここは故事成語の語源ということでご容赦いただきたい。それはこういう話です。

 宋に狙公(そこう)という人がおりました。彼は近所のサルにエサとしてドングリを与えていたのですが、だんだん生活が困窮してきたため、エサの数を減らすことを決めました。

 サルたちに「ドングリを与えるのを、朝に三つ夕方に四つへ減らそうと思う」と伝えると、サルたちは立ち上がって怒ります。そこで考えた狙公は、「それではドングリを、朝に四つ夕方に三つ与えるとしよう」と伝えると、サルたちは喜んだという寓話です。

 これが“朝三暮四”です。結局総数で見ると同じ七つなのに、「朝に四つもらえる」というような目先の利益にだまされる人間の愚かさを戒めた寓話です。実は、この“朝三暮四”、行動経済学的にはなぜか意外と有効であることが知られています。

身近に潜む「朝三暮四」の甘いワナ
行動経済学でも説明がつく

 身内で最近こんなことがありました。高齢の家族が、携帯電話の料金を見直してほしいというのです。以前聞いていた話では月3500円ぐらいのプランだと言っていたのですが、実際に見てみたら毎月5800円払っています。

 それで一緒に販売店に行って、格安プランの携帯会社に転入することにしました。帰り道に、

「ずいぶん安くなったねえ。月990円だなんて」

 と喜んでいるので、

「違うよ。初年度はそうだけど、来年からは毎月2090円だからね」

 と教えておきました。同じ説明を聞いていても最初に説明してもらった初年度割引の数字しか頭に入っていなかったようです。

 以前のプランもどうやら初年度3500円、2年目が4500円で3年目以降が5800円になる契約で、高くなった携帯料金をもう何年も支払っていた。まさに“朝三暮四”の仕組みなのですが、初年度割引に消費者は弱いのです。