プライドをもてるか
もう1つ例を挙げましょう。
私はかつてスイスに住んでいました。そこで「なるほど」と思ったのは、スイスでは下部リーグに所属している選手であっても、14~15歳くらいの段階で一度はスイスの代表合宿に参加する機会が与えられるのです。
日本であれば、年代別のサッカー日本代表合宿に参加できる人数は限られているのが当たり前です。呼ばれるメンバーの顔ぶれもだいたい決まっています。日本は、一部の人にしかチャンスを与えない組織が多いのです。
この違いは、非常に大きいと思います。スイスのサッカー選手たちは、その多くが「私はナショナルチームの合宿に参加した」というプライドを持つことができるのです。日本でそのようなプライドを持っているサッカー選手は、ほんの一握りでしょう。
そして若い頃にそのようなプライドを持てたかどうかは、その後の人生を大きく変えると思うのです。
意思決定の数、そしてプライドを持てるかどうか。
これらはサッカー人生だけでなく、サッカーを辞めたあとも、その人が「自分はサッカーを通してしっかり意思決定した」と感じ、自分の価値や存在感に自信を持つことにつながる気がします。
学生たちが就活で周囲に流されてしまうのも、過去に自分で意思決定した経験が少ないことが原因の1つではないかと思います。もともと自分がそれを望んでもいないことに気づかないまま、周りが外資系金融を受けるから「自分も受けなければ」と焦燥感にかられ、一生懸命に準備し、疲れてしまう学生もいます。
東大金融研究会が、講演会の質疑応答やその後の時間に「一人ひとりが本当に質問したいことを聞く」ことを大切にし、分会の運営を学生にまかせているのは、学生たちに意思決定する経験を重ねてもらうためです。
意思決定の数を増やすことが、自分の価値観を大切にし、その価値観にプライドを持って進路を決める学生を増やすと私は思っています。
(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)