いま、注目を集める研究会がある。わずか2年で約1000人規模へ拡大し、東大新入生の20人に1人が所属する超人気研究会に成長した、「東大金融研究会」だ。創設者は外資系ヘッジファンドに20年在籍し、超一流の投資家として活躍してきた伊藤潤一氏。東大金融研究会ではお金の不安から自由になり、真の安定を得るために「自分の頭で考える」ことを重視している。世の中に溢れる情報や他人の声に振り回されず何が正しいのかを自分で判断し、物事を本質的に理解し、論理的に思考を展開することで、自立した幸せな人生を歩むことができるからだ。本連載では、東大金融研究会の教えを1冊に凝縮した初の書籍『東大金融研究会のお金超講義』から抜粋。頭のいい人だけが知っている「お金の教養と人生戦略」を紹介する。

日本では継続的インフレが起こらないといえる理由【東大生が投資のプロに学ぶお金の教養】Photo: Adobe Stock

根本的な構造の問題をふまえる

発想力、展開力を使って考えを深めていきましょう。

なぜ日米の物価上昇率は長期にわたってアメリカが日本を上回る状況が続いてきたのでしょうか?

アメリカで物価上昇が続いてきた理由は、わかりやすいでしょう。移民を受け入れることで人口が増加しており、経済成長は堅固です。消費が伸びやすく物価も上がりやすいといえます。

一方、日本はアメリカとは真逆です。少子高齢化で人口が減少するステージに入っており、経済成長は鈍化しています。消費が伸びにくく物価も上がりにくいわけです。

さらに掘り下げて考えると、日本の物価上昇を抑える要因として、需要と供給それぞれに構造的な問題があると思います。

需要については、貯蓄に熱心でお金を貯め込むカルチャーの影響があるでしょう。金融庁のレポートに端を発した「老後2000万円問題」もあり、老後の生活資金が足りるのかという不安が広く国民の間に広がっています。そもそも公的年金制度への不信感も根強く、「将来はろくに年金をもらえないのでは」と考えている人も少なくありません。

家計の金融資産のデータからわかるのは、現預金がどんどん積み上がり1000兆円を超えるまでに膨らんでいる事実です。買えるものも買わずに貯蓄に回す人が増えれば、需要が伸びるはずはありません。

供給については、日本企業が直面している競争の激しさについて考える必要があります。

日本の人々は基本的に真面目で仕事熱心です。よい商品が市場に登場すると、それを真似てよりよい商品が次々に現れます。ポテトチップス1つとっても店頭に多種多様な商品が並んでいるのを見れば、メーカーがつねに激しい競争にさらされていることが実感できるのではないでしょうか。

そして激しい競争は、価格を引き下げる方向にも働きます。

日本では企業がなかなか倒産しないことも、物価が上がりにくい要因です。

アメリカの場合は企業の倒産処理の規定により、市場からの撤退ルールが明確化されています。日本では、本来なら市場から撤退すべき企業も、銀行や政府のサポートでゾンビのように生きながらえるケースが少なくありません。プレイヤーが多すぎる状況では、当然、物価は上がりにくくなります。

このように需給構造を見てみると、物価の継続的な上昇はなかなか起きないだろうと考えられます。メディアでコメントする立場の人の中に「いずれ日本でハイパーインフレが起きる」などと主張する人がいますが、そのような言説に踊らされてはなりません。

根本的な需給構造の問題をふまえれば、たとえば1年で物価が3%ほど上昇する局面はあったとしても、それが持続的なものにはなりえないという基本的な見方が明確になります。逆に言えば、根拠をもって基本的な見方を整理できているからこそ、一時的に物価が上がる局面も認められます。

為替の問題について考えたことでわかるのは、自分の中に論点を持ち、その論点に対する基本的な見方を持ったうえで、目の前の状況に機動的に対応することの重要性です。

論点も持たず、状況の変化に対して「考えたつもり」で対応するのは、ただの「山勘の勝負」でしかないということを頭に入れておきましょう。

(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)