「無条件降伏」「非武装」要求をロシアが取り下げられない理由

 停戦交渉に関して、さまざまな調停の案が情報として出てくるが、プーチン大統領が「引く」という形になるのを、ロシアがのめない。そこで、大統領の姿勢を変えるにはどうしたらいいかという議論になり、果ては暗殺やクーデターの可能性はないのか、必死に探ることになっている。

 これは、ロシアや中国のような「権威主義的体制」の弱点を端的に示しているように思う。

 権威主義的体制は、指導者は絶対に間違うことがないという「無謬(むびゅう)性」を前提としている。指導者は常に正しく、常に勝利し国民を導いていく。これが、指導者の「権威」となり「権力」の基盤となっている。

 だから、権威主義的統治では、自由民主主義では当たり前に行われる、国民の声を聴いて妥協し、政策を修正するということは、それ自体が権威を揺るがすことになるため絶対に認められないのだ。

 また、うまくいかなくなったら、うそを重ねて権威を守ろうとすることになる。これについては、以前中国に関して指摘したことだが、今のロシアの状況に完全に当てはまる(第220回)。

 ロシアの現状を見ると、デジタル時代に迅速な意思決定が可能と評価されてきた権威主義的統治が、実はいかに有事に非効率的で、必要な決断を遅らせる、コストの高いものかが明らかになったのだ。

プーチンの保身のために戦争を続けている

 現状、ロシア軍の望む戦争となっていない。また、プーチン大統領がウクライナ侵略という「力による現状変更」を強行したことで、国際社会から完全に孤立した。石油・ガスパイプラインは国際政治の交渉材料としてまったく使えなかったし(第52回)、国際決済システム(SWIFT=国際銀行間通信協会)からも排除された。

 また、ロシアはルーブルの暴落を止めるために金利を20%上げざるを得なくなった。ルーブルの暴落を止めなければ、ロシア国内の資産が失われ、企業倒産が起きる。これは、2008年や2014年の経済危機で実際に起きたことだ(第147回)。その上、ロシア国債のデフォルトも取り沙汰され始めている。欧米や日本など外資は、ロシアへの投資を引き揚げ始めているのだ。

 さらに重要なのは、欧米はロシア経済に大打撃を与える切り札を、まだ温存していることだ。SWIFTからの排除には、石油・ガスの決済取引が中心のズベルバンク、ガスプロムバンクが含まれていない。ロシア産の石油・ガスの取引禁止を決めているのは、現在のところ米国のみだ。