成功の脳科学とメタ認知

 とはいえ、失敗から学ぶように脳がデザインされているとはわかっていっても、自分の現在のレベルに合っていないものをやり続けてやる気を失ってしまっては、今後の仕事や勉強に大きな影響が出てしまいます。

 やはり、成功体験で自信をつけて、やる気満々で仕事や勉強に臨んでいくことも大切です。

 最近では脳科学的な面からも成功からの学びが効果的であることが示唆される研究が出てきました。[2]

 また、同じ成功や失敗でも、自分のマインドセットによって学びの効果が変わってきます。

 たとえば、何かの問題に取り組んだ場合。自信をもって答えたのに、間違えていたことに気づいてハッとする。

 その驚き体験で学習効果が上がるのを「ハイパー修正効果」と言ったりします。

 成功すると思って、間違えると、記憶に残りやすいわけですね。

 逆に、間違えているとおそるおそる答えてみた時に、「合っている」と言う場合にも、学習効果が上がることがわかっています。

 自分の認識が正しいか、正しくないかという認識は、いわば「認識の認識」。「メタ認知」と呼ばれています。メタ認知と学習については、拙著「脳科学が明かした!結果が出る最強の勉強法」で詳しく解説しておりますので、ご参考ください。

「85%の法則」とは?

 失敗や成功、正解や間違いは、学びにつきもの。失敗も成功も両方大切で、科学的にもそれが示されてきました。

 それでは、どのくらいのコンビネーションがちょうどよくて、学びに最もつながりやすいのか。

 難しすぎずに、かつ、簡単すぎずない。

 自分の現在のレベルやスキルに合っているのか。

 この誰もが求める「黄金比」に関して、重要なヒントとなりうる研究が、近年ネイチャー・コミュニケーションズに発表されています。

 プリンストンなどの研究グループによると、マシーンラーニング技術による学習シュミレーションによると、85%成功して15%失敗するというバランスがもっとも効率的であるという結果が出たというのです。[3]

 この研究はAIによるシュミレーションによるものであり、また、図形の認識テストなどの簡単な学習プロセスに関するものなので、そのまま人間の学習すべてに当てはまるかどうかは今後の研究に委ねられるところです。

 ただ、「適度に失敗して、心が折れない程度に成功体験を」という私たちの直感が、初めて数値に表された興味深い結果です。

 自分レベルやスキルに合っているか。

 子どもの学習の進度に合っているか。

 失敗と成功、正解と不正解の割合を見定めるときに「85%の法則」を参考にしてみてはいかがでしょうか。

【参考先】
*1 Pessiglione, M., Seymour, B., Flandin, G. et al. Dopamine-dependent prediction errors underpin reward-seeking behaviour in humans. Nature 442, 1042–1045 (2006). https://doi.org/10.1038/nature05051
*2 Histed, M.H., Pasupathy, A., and Miller, E.K. (2009) Learning substrates in the primate prefrontal cortex and striatum: sustained activity related to successful actions. Neuron, 63: 244-253.
*3 Wilson, R.C., Shenhav, A., Straccia, M. et al. The Eighty Five Percent Rule for optimal learning. Nat Commun 10, 4646 (2019). https://doi.org/10.1038/s41467-019-12552-4