2012年、ITビジネス分野でもっとも印象に残った本に、この一冊を挙げる人も多いのではないだろうか。『ロングテール』『フリー』の著者が、グローバル経済の次のビッグウェーブを起こすパラダイムシフトを提唱した『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』。アイディアとPCさえあれば誰もが「製造業」を立ち上げられる時代とはどういうものか。著者のクリス・アンダーソン氏に聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)

Chris Anderson
世界的な科学雑誌の「ネイチャー」や「サイエンス」、英国の高級誌「エコノミスト」などを経て、2001年に米「ワイアード」誌米国版の編集長に就任。2006年に刊行した著書『ロングテール――「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』(早川書房)に続き、2009年に出版した『FREE フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』(NHK出版)も世界的なベストセラーとなる。ジョージ・ワシントン大学で物理学の学位、カリフォルニア大学バークレー校で量子力学と科学ジャーナリズムを専攻。ロスアラモス国立研究所で調査員を務めた経験もある。自身も2009年、ラジコン飛行機製造の会社「3Dロボティクス」を起業し、先日、同社の事業に注力するため「ワイアード」編集長の辞任を表明した。 Photo by Kazumoto Ohno

デジタル+製造業は
第三の産業革命だ

――『MAKERS』の中で言う、maker movement(メイカームーブメント)の定義とは、どのようなものですか。

 ウェブ世代が現実の世界と交わることです。それは世界中のガレージがオンライン化し、「仕事」と「デジタルツールの利用」を同時にすると起こるムーブメントで、デジタルファイルやCAD(※1)や3Dプリンター(※2)などを使う、デジタル製造のことです。

――メイカームーブメントが起きるまでに、どのようなターニングポイントがあったのでしょうか。

 基本的には3つあったと思います。1980年代のパーソナルコンピューターの登場。1990年代のウェブ時代の到来。そしてdigital fabrication(デジタル製造)です。デジタル製造、つまりメイカームーブメントが始まったのは5年ほど前で、今、主流になり始めました。これがデジタル革命の3つ目の波だと思います。

 さらに、産業革命の観点からいうと、メイカームーブメントは3つ目の産業革命にあたると思います。ひとつ目がモノを作る機械の革命、2つ目がコンピューター革命でこれは情報革命です。3つ目がデジタルと製造が融合した革命です。

※1――Computer-Aided Design systemの略。コンピュータを用いた設計支援システム。
※2――CADなどの設計データや形状データを基に、立体物を自動的に製造する装置。