貿易収支が均衡している理由としては、日本企業が「円安でも輸出を増やさない」という決意で現地生産化を進めたことが主因だろう。円高でも円安でも収益が振れない経営体質を作ること、為替レートが動くたびに現地生産と輸出の間で生産体制を見直す手間とコストを不要とすることなどに加え、人口減少で経済が縮小していく日本よりも人口が増えそうな海外に軸足を移したい、といった思惑もあるのかもしれない。

 日本製品の競争力が低下して円安でも輸出が増やせないのであれば深刻な問題だろうが、そうした理由は少なくとも主因とは言い難い。アジア諸国の経済発展などによって競合する場面は増えているだろうが、まだ日本製品の競争力はそれなりに強いと信じたい。

 輸出が増えない理由は上記だとして、円安でも輸入が減らない理由もあるはずだ。消費者の需要は、値上がりした輸入品から割安な国産品にシフトするはずなのに、大幅なシフトが見られていないのである。

 それも、日本企業の戦略と関係しているのかもしれない。すなわち、労働集約的な製品はすべて海外で生産して日本に輸入し、国内では作らないというのが日本企業の基本戦略だとすれば、国産品に需要をシフトしたくてもできないのだ。

 それでも、輸入ワインから日本酒への需要シフトはありそうなものだが、「酒は酔うためにあるので、ワインでも日本酒でも何でもいい」という酒飲みは筆者だけなのであろうか。

 さて、貿易収支は均衡しているとしても、第1次所得収支(外国との利子配当の受け払いなど)は大幅な黒字である。これが円安を反転させると考える人もいるかもしれないが、こちらは貿易収支と比べると、為替レートに与える影響ははるかに小さいと考えてよい。

 輸出企業は受け取った輸出代金をほぼ確実に売却するであろうし、輸入企業は輸入代金をほぼ確実に購入するであろうから、貿易収支はほぼストレートにドルの需給に影響する。しかし投資家たちは、受け取った利子や配当を現地で再投資する場合も多い。