日本の所得や雇用などの経済格差が拡大しているのはなぜか。バブル崩壊後の経済政策の失敗や、中国の高度成長をはじめとする外的要因に加え、コロナ禍やウクライナ危機による世界経済のパラダイムシフトをわかりやすく解説する。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
90年台に資産バブルが崩壊し経済は長期停滞
雇用形態の変化が重要なファクターに
わが国の所得や雇用などの経済格差が拡大している。特に、コロナ禍の発生によって、母子家庭などの生活環境が大きく悪化している。ある世論調査では、「ある程度」との回答を含め88%の回答者が、「経済格差は深刻である」と答えた。
雇用形態でも正社員と非正規社員、男性と女性といった差異による格差の拡大は重大な問題になりつつある。かつて、高度成長期に「1億総中流」と言われた時期と様変わりだ。
背景には、1990年代以降、わが国経済の成長率が低下したことに加えて、雇用形態が変化したことが重要なファクターになっている。90年代に入り日本では資産バブル(株式と不動産の価格が高騰した経済環境)が崩壊し、経済を長期の停滞に向かわせた。
経済政策も失敗が続いた。中国経済の高成長によって日本にはデフレの圧力もかかった。また、本邦企業はグローバル化に対応することが難しく、収益は上がりづらい状況が続いた。企業経営者はコストを削減するために正社員を減らし、結果として非正規雇用が増え、経済全体で給料が上がらない状況が鮮明化している。
今後、わが国の経済格差は加速度的に拡大する恐れがある。非正規雇用者などの生活を取り巻く環境は一段と厳しさを増すだろう。政府は、社会的弱者への支援をしっかりと行いつつ、労働市場の流動性の向上、および職業訓練や教育の機会を増やさなければならない。それが難しい場合、社会全体で閉塞感が高まる展開は避けられない。