東京・丸の内の三菱一号館美術館で「上野リチ~ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展」が5月15日まで開催されている。上野リチは、日本人建築家と結婚して来日したウィーン出身の女性で、昭和戦前から1960年代まで、京都や東京で活躍したデザイナーだ。生物をモチーフにした華やかでポップなテキスタイル・デザインがよく知られている。この憂鬱な時代に、心を浮き立たせてくれる展覧会だった(文中敬称略)。(コラムニスト 坪井賢一)

中部ヨーロッパの明るい風が吹くような
楽しい上野リチの作品群

上野リチは多彩な製品を発表している。彼女の、植物や鳥をモチーフにして変奏していくテキスタイルは、見ていて飽きることがない上野リチは多彩な製品を発表している。彼女の、植物や鳥をモチーフにして変奏していくテキスタイルは、見ていて飽きることがない Photo by Kenichi Tsuboi 拡大画像表示

 この展覧会には2度行った。最初は2月18日、ロシアがウクライナを侵攻する直前で、寒い日だった。35年ぶりに見る上野リチの作品は楽しい。たばこはやめたが、彼女がデザインしたマッチ箱が欲しくなった。

 2度目はウクライナの惨劇が報じられている4月のはじめで、暖かい日だったが気分はふさいでいる。しかし、再び展示を見ていると、ここでは中部ヨーロッパの明るい風が吹いていて救われた。

 上野リチの結婚前の姓名はフェリーチェ・リックスで、1893年にウィーンに生まれた。両親はユダヤ系で、父親はハンガリー人だったそうだ(展覧会図録による)。ニックネームをリチといい、日本では上野リチ・リックスと名乗っている。なお、当時のハンガリーはオーストリアと二重帝国を構成していた。

 それでは、リチはどんな人物なのか。彼女をめぐる人間関係をひもときながら、戦後日本のデザイン史の一側面を思い描いてみたい。