全国で広がるブラック
校則の見直し

 大阪府にとどまらず、ブラック校則を見直す機運は日本全国で高まっている。文部科学省は2021年6月に各都道府県教育委員会などに向けて、学校や地域の実態に応じて校則の見直し等に取り組むよう求めた。さらに、生徒指導に関する学校や教師用の基本ガイドである「生徒指導提要」(2010年3月作成)の改訂に向けても動いており、今年3月29日に改訂試案が公開されている。こうした文部科学省の働きかけもあり、各地でブラック校則の見直しが進みつつあるのだ。

 東京都では、「生来の髪を一律に黒色に染色」「『ツーブロック』を禁止する指導」「登校しての謹慎(別室指導)ではなく、自宅謹慎を行う指導」「下着の色の指定に関する指導」「『高校生らしい』等、表現があいまいで誤解を招く指導」について、新年度からすべての都立高校で撤廃されることになった。

 2021年9月9日にNHKが報じたところによると、都道府県の4割が公立高校の校則の見直しを進めているという。

なぜ学校や教師はブラック校則を
存続させようとするのか

 文部科学省の働きかけや世論の高まりで一気に見直しが進みつつあるとはいえ、なぜブラック校則が生まれて、なぜなかなか撤廃されないのだろうか。学校側や教師の意見を紹介しつつ、今後の校則の在り方について考えてみたい。

「ブラック校則、ブラック校則と近年批判ムード一色だが、どんなブラック校則もそれなりの理由や経緯があって生まれてきていることを忘れないでほしい」と神奈川県公立校のとある教師は言う。例えば、髪色を一律に黒色に染色するという校則や下着の色の指定も、就職活動のことや事件・トラブルの誘発率などを考えると一概に生徒の人権を無視したブラック校則だとは言い切れないというのだ。

 他の教師や学校関係者からは「社会に出たらもっと理不尽なこともある。集団生活の中でルールを守れるようになるための訓練だと思ってほしい」「落ち着いた教育環境を整えるためには、それなりに厳しい規則が必要」「一度撤廃してしまうと、改めて設定するのは難しい」といった声もあった。

 また、ブラック校則の中には実は保護者からの要望でできたルールもあるのだとか。「校則を緩めろと言ってくる親御さんもいれば、もっと厳しくしろという親御さんもいる。全員が納得する校則にはできない」という。ただ、文部科学省や都道府県が見直しを指示している現在は、校則を見直す絶好のチャンスだと教師側も感じているそうだ。

おかしいと思ったときに
声を上げられる環境作りを

 各地で広がっているブラック校則の見直しだが、前述の教師の声にもあったように保護者全員が校則を変えることに賛成というわけではない。それどころか、生徒の中にも「校則を変えてほしくない」とひそかに思っている人もいるのだ。

 熊本県で2020年10月に実施された「校則・生徒指導のあり方の見直しに係るアンケート」によると、自分の学校の校則の見直しが必要だと思うかという問いに対して、小学生の32.5%、中学生の27.2%、高校生の20.8%が「必要ではない」と回答している。

 学校、地域、時代、社会情勢、教師や保護者や生徒それぞれで、どのような校則が必要で、どのような校則がブラック校則なのかはさまざまに変わる。一律して髪を黒く染めることがおかしいように、国や都道府県が一律して「これはブラック校則だ」と撤廃してしまうこともおかしいのかもしれない。

 それよりも、「理不尽だ」「その校則はおかしい」と声を上げられる環境を作っていくこと、学校・教師・生徒・保護者が意見交換をできるような場を作っていくことが、将来的にブラック校則を生まない土壌となるのではないだろうか。