「コロナ禍において、海外での経済封鎖や世界的な物流網の混乱などにより、一時的とはいえ、医薬品の製造や輸入が滞る事態が生じました。価格競争力を求めてサプライチェーンは『グローバル化』してきた経緯にありますが、日本で必要となる医薬品については、原薬・資材をも含めた『自給率の向上』が求められてきており、国内での安定供給を実現するためには、設備投資コストはもちろん、そのエネルギー使用量の増加についても気を配る必要があります。これらに取り組むには、個別企業のみならず、官民挙げての協力体制が必要と考えます」(井上氏)
「脱炭素と製造業の競争力をどう両立するかという観点から言うと、当社のようにエネルギー多消費型の製造業は、再生エネルギーに切り替えることは容易なことではありません。炭素税、排出権取引はヨーロッパで先行しており、日本でも制度設計が検討されていますが、国からの支援や政策を期待したいところです」(片岡氏)
ここまでは、主に供給サイドの視点で意見が交わされたが、需要サイドからも意見が出された。清水氏は「社会的要請に加え、ESG投資やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の観点からも、大企業における脱炭素の取り組みは待ったなしと言っていいかと思います。エネルギー消費の削減や調達するエネルギーのグリーン化など、現在の取り組みについて、各ステークホルダーはどのように受け止めていますか」と、井上氏と片岡氏に問いかけた。
片岡氏は、「社会的に関心が高い。エンドユーザーが製品を選択する時の判断材料になってきている印象です。セッションで解説した通り、当社でも安全性を含めた新しい製品設計(開発)を進めていますが、大きな関心が寄せられています」と回答。続けて、井上氏は「いま差し迫って医薬品メーカーに求められているもの、特にジェネリックメーカーに求めているのは、やはり品質と供給。そのニーズに応えることが大前提になっています。エネルギー削減の面では、配送部分に関して改善の余地があります。1日に何回も配送する商慣習がいまだに残っていますが、これを解消することで、エネルギーの削減につながると考えており、働きかけをしているところです」と、業界ならではの課題を提示し、さらに現在の取り組みを紹介した。
その他にも、グリーンフレーションや世界的に注目が集まるボランタリークレジットについても触れられた。グリーンフレーションとしては、これまで石油価格の高騰は中東情勢起因が多かったが、現在は、供給ショートと地政学、さらには米国のテーパリングや利上げなどの要因が複雑に絡んでいる。これに対して翁氏は「コロナ禍やウクライナ情勢なども大きく影響してきています。日本にとっても、やはりどうやって戦略的にトランジションを進めていくか、安定供給とコストの両面をしっかり見ながら進めていく必要があります」と、改めて先を見通しながら進めることの大切さと難しさを語った。
また清水氏は、グローバルでのクレジット市場活性化の動きやオフセット需要の増加などの観点から、カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンスの活動についても意見を求めると、橘川氏は「まずはボランタリーベースで、成果を宣言していく。これが日本から始まったことは、非常に重要な意義があります。多分カーボンニュートラルで一番難しいのは熱のカーボンニュートラル。これから熱エネルギーによる製品が受け入れられていく中、カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンスが、大きな第一歩を踏み出したと言えます」と評価した。
最後に清水氏は、「当社(東京ガス)は、足元の低炭素化における現実解である天然ガス転換+高度利用、これに加えて、脱炭素へのトランジション。これらを少しでも加速させるべく、お客様および自社へのCN都市ガス(カーボンニュートラル都市ガス)採用を推進していきたい」と述べて、ディスカッションを締めくくった。
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企画・制作|ダイヤモンドクォータリー編集部