「留職」で越境学習を広めたNPOは、なぜ「ビジョンの刷新」という劇薬に手を出したのか?

大企業の人材をアジアの新興国に送り込み、現地の課題解決を行う「留職プログラム」で知られる「クロスフィールズ」。2011年の創業以来、「働く人」と「社会」をつなぐ活動に取り組み、次世代のリーダーを数多く生み出してきたNPO法人だ。
「越境学習」の世界に革命をもたらしたとされるクロスフィールズだが、実は人知れず「限界」にぶつかり、そのビジョンを大きく刷新したという。いったいなぜ、創業10年を迎えたNPOは自らの存在意義に直結するビジョン・ミッションの刷新に至ったのか。実際にビジョン刷新プロジェクトに伴走したBIOTOPE代表・佐宗邦威氏とともに、クロスフィールズ代表・小沼大地氏、広報・マーケティングチームのマネジャー・西川理菜氏が10年間の活動で感じていた限界とビジョン刷新に至るまでの歩み、そしてその過程を経て生まれた団体の変化を語った。(本レポートは2022/3/10に開催されたオンラインイベントを元に作成しています。文/クロスフィールズ 構成/廣畑達也)

「留職」を仕掛けたNPOは10年で何をどこまで成し遂げたか

「留職」で越境学習を広めたNPOは、なぜ「ビジョンの刷新」という劇薬に手を出したのか?佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。著書に、『想像と模倣』『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』。大学院大学至善館特任准教授・多摩美術大学特任准教授。

佐宗邦威氏(以下、佐宗):今回モデレーターを務めますBIOTOPE代表の佐宗です。当社は組織のビジョン、ミッション、バリューの策定や浸透、ブランディングなど多岐にわたるプロジェクトを行う「共創型ストラテジックデザインファーム」として、これまで100社以上の企業、そしてさまざまな職種のビジネスプレーヤーと協業してきました。

 クロスフィールズとの出会いは僕自身が彼らのプログラムに参加したことです。2020年1月にインドで実施された大企業の役職者向けフィールドスタディに参加し、「ビジネスとソーシャルの融合」というアプローチに共感しました。そんなクロスフィールズから今回リブランディングの相談を受け、これはぜひやってみたいと協働に至ったのです。NPOとの協働は自分としても初めてでしたが、これがなかなかのチャレンジでした。今回は1年2カ月のプロジェクトを振り返り、組織に起こった変化を伺っていきたいと思います。

小沼大地氏(以下、小沼):クロスフィールズ代表の小沼です。大学卒業後に青年海外協力隊としてシリアで活動し、マッキンゼーでコンサルタントとして勤務した後、2011年5月にクロスフィールズを創業しました。ビジネスとソーシャルをどのようにつないで価値を生むのかが自分自身の一貫したテーマです。創業時は僕と共同創業者・松島の2名でしたが、現在は30名近くのメンバーが在籍しています。

西川理菜氏(以下、西川):同じくクロスフィールズの西川です。今回のリブランディングプロジェクトを担当しました。IT企業での勤務を経て、2015年にクロスフィールズにプロジェクトマネジャーとして加入し、アジアやアフリカの新興国における事業の企画・運営を担当していました。現在は広報・マーケティングチームでマネジャーを務めています。約7年クロスフィールズに在籍していますが、今回のリブランディングは組織のカラーを変えた、すごく大きなモーメントだと捉えています。

佐宗:まず、クロスフィールズがどんな団体か教えてもらえますか?

小沼:クロスフィールズは2011年、「すべての人が『働くこと』を通じて想い・情熱を実現することのできる世界」「企業・行政・NPOがパートナーとなり、次々と社会の課題を解決している世界」という2つのビジョンを掲げて創業しました。もともと僕が青年海外協力隊としてシリアで活動し、その時にビジネスセクターの人々が現地の課題解決に貢献する姿をみて、ビジネスの世界と社会課題解決の世界をつなげたいという想いを抱いたことが起点となっています。

 当初は大企業の人材がアジアの新興国に飛び込み、現地の課題解決を行う「留職プログラム」(以下、留職)がメイン事業でした。留職は2012年にパナソニック社の社員をベトナムの社会的企業に派遣したことを皮切りに、これまで200名以上をインドやカンボジアなどのアジア新興国に派遣してきました。「留職者」と呼ばれるプログラム参加者は、本業で培ってきたスキルや経験を生かして現地の課題解決に貢献。同時に新興国のNGOや社会的企業のリーダーから刺激を受け、自身のリーダーシップやパーパスを見つめ直していきます。これまで約50社から200名を超えるビジネスパーソンが、アジア12カ国での留職に参加しました。

「留職」で越境学習を広めたNPOは、なぜ「ビジョンの刷新」という劇薬に手を出したのか?ラオス農村部で栄養改善に取り組む団体に留職した食品メーカー研究者(右)

小沼:2016年頃からは企業の役職者が短期間で国内外の社会課題を体感する「社会課題体感フィールドスタディ」(以下、フィールドスタディ事業)を開始。インドやルワンダ、東北の震災被災地などを訪問するプログラムを展開しており、2020年末までに500名以上の方に参加いただいています。

 事業が順調に拡大していた中、2020年2月の新型コロナ拡大により状況が一変。海外渡航や現地実施が前提の事業は全面ストップとなり、一時は団体存続の危機に陥りました。しかし留職を国内派遣に切り替え、オンラインで実施できるフィールドスタディを開発したほか、VRで社会課題を体感する「共感VR」事業などの新規事業を立ち上げました。こうした工夫や新たな挑戦により、なんとかコロナ禍という危機を乗り越えてきたという状況です。