政策金利がゼロまで達すると、日銀の金融政策だけでは景気を浮揚したり、インフレ率を上げたりすることは難しい。

 日銀が政府の大事な子会社であるなら、子会社の目標達成のために親会社たる政府が適切な行動を取ったかが問われなければなるまい。

 ここまでの「親会社」の行動の採点は明らかに不合格だった。

 米国政府は、新型コロナウイルス対策の財政支出をやり過ぎて現在、消費者物価レベルでも数十年ぶりのインフレ状況にある。一方、日本は財政を出し足りなかった(給付金などの「財政支出」ではなく「減税」でも良かったが、ともかく足りなかった)。

 親会社たる日本政府のトップは長らく安倍氏だった。安倍氏には、日銀を子会社と呼ぶ見識とは別に、親会社たる政府の責任者として行動が適切だったか否かについて、自問してもらわなければならない。「財務省のことは麻生さんに任せていた」では、責任者として自覚が足りない。

親会社の主は代わったが
岸田首相の登場で追加的な心配

 日銀の親会社たる政府の主は岸田文雄首相に代わったが、このことは今後の親会社の行動に対して不安をもたらしている。

 率直に言って岸田首相は、自分に首相を譲ってくれずに菅義偉前首相と競わせた安倍氏のことを嫌いだろう。また彼の周囲は、緊縮財政と利上げが好きで、「悪い円安論」を振りまく人々に囲まれている。

 岸田氏がアベノミクスの中核である金融緩和政策を修正しようとする可能性は高い。来春に予定されている日銀の正副総裁3人の人事が岸田政権下で行われることは、日本経済にとって大きなリスクだ。

 日銀が日本政府の子会社的存在であることは、金融政策にあっても「親会社」たる日本政府の意向が重要であることを意味する。