ハワイは昔、太平洋にぽつんと浮かぶ軍港だけの島だった

――ハワイのリゾートしてのブランド力はずば抜けたものがあるが、ハワイが最初から優れたリゾートであった訳ではない。そこには夢を持って投資をした人々がいた。日本人はそこから学ぶべきだと森岡氏は語る。

森岡 「ハワイは1950年代までは、太平洋にぽつんと浮かぶアメリカの軍港の島でした。しかしそこに情熱を持って立ち上がった人たちがいたのです。志と夢を持って投資を行った。ハワイというと何を思い浮かべますか? 海岸線に並ぶパームツリー、海辺に広がる白い砂、穏やかなハワイアンミュージック、優雅なフラダンス、美味しいハワイアン料理…。それらは全て、初めからハワイにあったものではありません。ルーツは現地のものですが、観光用に上手くアレンジして飾り付けていったものなのです。ハワイ=楽園、というイメージを50年かけて戦略的に世界中の人々の頭の中に植え付けていったのです。

 それだけではありません。お金持ちが喜ぶハイブランドのショップや高級ホテルなどもどんどん呼び込んだ。そういった努力があって、ハワイは世界最高のリゾートになった。それに比べたら沖縄はまだまだ素朴なままです。しかしハワイを超えるポテンシャルがあると私は思います。世界最高のリゾートになる可能性を秘めているのです。沖縄が成功すれば、他の日本の地域でも同様の観光開発が可能でしょう。これからの日本経済は、少子高齢化に拍車がかかり、かなり厳しい状態に追い込まれていきます。そんな中で、成長するアジアの活力を呼び込む観光産業は切り札になると私は考えています」

テーマパークをプラットフォームとして日本のコンテンツを世界に売り込む

――沖縄のテーマパークは、沖縄経済だけを活性化するにとどまらない。さらに次なる戦略には、日本経済そのものを救うポテンシャルがあるのだと森岡氏は語る。

森岡 「さらに次の段階として、マンガやアニメやゲームなどのコンテンツを使ってテーマパークで世界に発信していきたい。そういったコンテンツビジネスは、将来的には日本を支えるビジネスになりうるはずです。日本には素晴らしいコンテンツを生み出すクリエイティブの天才がたくさんいます。日本のマンガやアニメやゲームには世界を魅了できる宝物があふれています。これらを上手く活用して世界に売り込んでいくことが、次の世代の日本のビジネスの柱になっていくと思います」

――観光だけに頼ることがベストなのか、例えば製造業を沖縄に呼び込むことも重要なのではないかという声もある。そういった意見に対し、森岡氏はどう考えるのか?

森岡 「大きな工場を誘致するには、まず大量の水・電力などを確保しなければなりません。残念ながら沖縄は構造的にそれが難しく、大規模工場の誘致に失敗してきたという歴史があります。苦手なことに力を注ぐより、得意なことを伸ばすべきだと私は考えます。その方が合理的です。例えばフランスは、人口6000万人に対して、年間の観光客が8000万人もいる。このくらい観光客が増えて、どんどんお金を落としてくれる国になれば、日本の将来は明るくなります。日本は、世界的に見ても魅力に溢れた国なのです。豊かな自然と歴史と文化があります。食事も美味しいし、何より安全です。人々のホスピタリティも素晴らしい。もっと工夫して観光資源をコンテンツ化すべきです。もっと旅の目的地として世界にアピールすべきなのです。

 もちろん、観光地が外国人だらけになれば落ち着いて生活できないから嫌だという方もいるでしょう。その気持ちはわかります。フランス人だって同じことを言っています。でも、将来のことを考えてください。子どもたちの代の日本を考えてください。このままいけば、日本は確実に貧しくなります。製造業に変わる主要産業を育てなければ、没落していくことは目に見えています。何か手を打たなくてはならないのです。未来の子どもたちのために、大人は責任を持つべきです」

森岡 毅(もりおか・つよし)
「日曜日の初耳学」で話題の森岡毅が語る<br />「沖縄テーマパーク」の夢とは?

戦略家・マーケター
高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウ、マーケティング理論等、一連の暗黙知であったマーケティングノウハウを形式知化し「森岡メソッド」を開発。経営危機にあったUSJに導入し、わずか数年で劇的に経営再建した。
1972年生まれ。神戸大学経営学部卒。1996年、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表等を経て2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、窮地にあったUSJをV字回復させる。2012年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、マーケティング本部長。2017年にUSJを退社し、マーケティング精鋭集団「刀」を設立。
「マーケティングで日本を元気に」という大義の下、丸亀製麺を僅か半年でV字回復に導き、旧グリーンピア三木(現ネスタリゾート神戸)を経営再建させたほか、西武園ゆうえんちのリニューアルなどいくつものプロジェクトを推進。USJ時代に断念した沖縄テーマパーク構想に再び着手し注目を集めている。
著書に、『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(KADOKAWA)、『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(共著、KADOKAWA)、『誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命』(日経BP社)、『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』(ダイヤモンド社)などがある。『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)、『日曜日の初耳学』(TBS系)にも出演。