上海ロックダウンで信頼関係は瓦解

 習近平主導部の「ゼロコロナ政策」は、住民との信頼関係を一気に瓦解させた。英エコノミスト誌(5月5日)によると、「中国では教育を受けたエリート層が出国を希望しており、上海でロックダウンが始まった4月上旬から中旬にかけて、ウィーチャットアプリで『移民』というキーワードを使った検索数が4倍に増えた」という。検閲を免れるため「移民」を別の言葉に置き換えた文書の投稿も、3~4月で実に7万8000件に上るともいう。

 そんな中、今年5月10日、当局は不要不急の出国を厳しく制限すると発表した。「帰国の際、国民に感染を持ち込ませないため」だというが、最大の目的は、市民の「国外脱出」を阻止させることなのではないだろうか。

 ロックダウンのこの間、上海の住民は当局からさまざまな“不条理”な経験をさせられた。白い防護服を着た“白衛兵”が陽性者を野戦病院に強制連行する姿は、1966年から始まる文革時代の紅衛兵が“知識階級”などを無理やり批判の場に引きずり出す姿に重なる。

 扉を開けられないよう溶接したり、外出させないため玄関をおりのように囲んだり、さらには住人が隔離される留守中に、高層マンションの各戸の扉を蹴破って、部屋中に消毒液を散布するなど、私権侵害は若い世代にとってはなおさら許容し難い現実だった。

 食料品は底を突く一方、移動の不自由は相変わらずで、劣悪な環境の野戦病院に強制連行されるかもしれないという恐怖が、多くの若者の精神面に支障をもたらした。

 5月に入り当局は、「5月16日から段階的に商業施設の営業を再開させる」とか「6月1日から通常の生活が再開する」などと発表し、苦しい幽閉生活に“薄日”を与えた。しかし、オミクロン株に対するゼロコロナ政策と、“意味不明な措置”を講じたロックダウンで、若い世代は習指導部に対し疑心暗鬼になっている。