ロシアがウクライナ侵攻を始めた2月24日、中国はロシアからの小麦輸入を拡大すると発表した。西側諸国の経済制裁で窮地に陥るロシアへの“助け舟”ともいえるが、中国は近年、利害が共通するロシアと手を組み、穀物の輸入ルートの多元化に乗り出している。中国は「一帯一路」構想をも巧みに絡めて、食糧調達の“脱西側依存”を着々と進めている。(ジャーナリスト 姫田小夏)
中国が描く中長期の食糧安保戦略
中国はこれまでロシア産の小麦に対して、中国の植物検疫を満たしていないことを理由に輸入制限を行ってきた。しかし、今回の措置ではそれを全面解禁し、ロシアのどの地区からも中国に輸出できるようにした。
西側諸国による経済制裁に追い詰められるロシアにとって、その恩恵は小さくない。ロシアの通信社「スプートニク」は「ロシアからすれば巨大な消費市場が出現した」と報じた。
だが、それは単なる瞬間的な“助け舟”では終わらない。中国が見据えるのは、短期的なものではなく、むしろ中長期的なシナリオだ。
中国の報道や研究機関の調査報告書などをひもとくと、世界の中で孤立を深める中国が、利害や立場が共通するロシアや「一帯一路」の沿線国家とともに共同戦線を張り、中国包囲網を強行突破するかのような食糧安保戦略が見えてくる。
食糧の備蓄強化、ロシア産小麦を大々的に輸入
中国はコメ、小麦、トウモロコシの自給率では98%を超える。食糧の安全保障を一貫して重要視してきた中国は、「自分のどんぶりを持て」をスローガンに輸入依存度を減らしてきた。
そもそも小麦の国内生産は十分に足りているにもかかわらず、中国が近年小麦の輸入を急増させている背景にはしたたかな食糧の備蓄政策がある。