ここで注目してもらいたいのは、覚えた直後の急速な忘却カーブです。

20分後にはすでに42%を忘れ、1時間後には56%、1日後には74%を忘れるという結果になっています。

 この実験は、「意味をなさないアルファベットの組み合わせ」を実験材料に行われたので、われわれが日ごろ接する意味のある情報や知識であればもう少し曲線は緩やかになるでしょう。しかし、人が「覚えた!」と思った直後に、その多くを急速に忘れてしまうという脳の性質は変わりません。

 この実験結果を見て「こんなに早く忘れるの?」と驚いている人は、これまで自分の記憶に過大な期待を抱いていた可能性があります。

「覚えた!」と思っても、人の脳はこれだけ急速に物事を忘れていくことをまず頭に叩き込んでおきましょう。

メモリーミスの主犯格
「ワーキングメモリ」

 記憶の研究が進む中で、覚えた直後に急速に忘れてしまう原因がわかってきました。

それは、「ワーキングメモリ」という記憶です。これが実はメモリーミスを起こす主犯格なのです。

 ワーキングメモリは「脳のメモ帳」にたとえられ、「作動記憶」「作業記憶」などと訳されます。情報を長期間にわたって貯蔵する「長期記憶」とは異なり、何かの目的のために「一時的に」貯蔵される領域であることが特徴です。

 コンピューターで言えば、「長期記憶」に当たるものがHDD(ハードディスク)で、ワーキングメモリがRAM(メモリ)です。

 HDDはデータを長期保存する場所ですが、RAMはソフトやアプリが稼働するにあたってデータを一時的に蓄えたりする「作業領域」。ソフトの動作が遅くなったりフリーズしたりするときは、このRAMが一杯になっているケースが大半です。

 人の脳でこのRAMと同じような働きをするのがワーキングメモリなのです。