経験・知識を増やして
ワーキングメモリへの“負荷を減らす”

 もちろんこういったトレーニングに意味がないとは言いません。普段あまり頭を使わない人にはいい刺激になるでしょうし、ワーキングメモリを使う、いいウォーミングアップにもなるでしょう。ただ、こういったトレーニングのスコアがよくなったことで、ワーキングメモリが鍛えられたと喜ぶのは、“大いなる勘違い”の危険性があるのです。

 実際、ワーキングメモリの容量を増やす学術的な研究はたくさん行われていますが、その効果は実験室レベルにとどまっているのが現実です。

「残念ながらワーキングメモリトレーニングが、実験室課題を超えて、たとえば、学業成績や日常生活の課題にまで効果があると報告した研究は今のところまだない」(『ワーキングメモリと日常』より/T.P.アロウェイ、R.G.アロウェイ編著/北大路書房)

 今後「脳トレ」ブームのようにワーキングメモリを鍛える「ワートレ」ブームが起きるかもしれませんが、くれぐれもこの点にご注意ください。

 メモリーミスを減らすために重要なのは、「ワーキングメモリを鍛える」ことではなく、「ワーキングメモリへの負荷を減らす」ことです。

 たとえば、そのためのひとつの方法が経験・知識といった記憶を蓄えて、入ってきた情報を結びつけられる受け皿を、増やしておくことです。

 たとえば前回の「上司の木下課長」の話も、すべての情報があなたにとって新しいものだったから覚えられなかった、とも言えるわけです。実際の仕事であれば、少しは楽に覚えられたはずです。

 なぜなら大半の固有名詞はすでに記憶にあるため、入ってきた情報はその記憶に結びつき、使う腕の本数が少なくて済むからです。

 そのほかにもワーキングメモリの負荷を減らす方法はいくつかあります。詳しくは次回以降紹介します。