NetflixPhoto:123RF

4月下旬、株式市場に衝撃が走りました。飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けた米配信大手ネットフリックスが、約10年ぶりとなる加入者数の減少を発表したのです。ネットフリックスといえば、自らが仕掛けたDVDレンタル事業を破壊し、ストリーミング配信で第二の創業を成し得たディスラプター(市場の破壊者)です。同社の成長を脅かす変化の兆しとは。(グロービス ファカルティ本部テクノベートFGナレッジリーダー 八尾麻理)

ネットフリックスの成長鈍化は
なぜ起こったのか

 4月19日、米配信大手のネットフリックスが第1四半期(22年1~3月)決算報告で、過去10年来初となる約20万の会員減少を発表しました。加えて、続く第2四半期はさらに200万会員を失う可能性があると言及。株式市場に衝撃が走りました。

 同社は1997年、店頭レンタルが当たり前だったDVDのネット予約・郵送レンタル事業から身を起こし、ブロードバンド黎明期の2007年にはいち早く映画やドラマの動画配信事業を開始しました。その後の快進撃はみなさんもご存じの通りです(下図参照)。

ネットフリックス会員推移出典:Netflix Annual Report、Netflix HPより筆者作成 拡大画像表示

  第1四半期決算を踏まえ同社が株主に宛てた書簡には、次のような“成長鈍化の理由”がずらりと並びました。

● 世界の動画配信市場は(新興国へ)今後も拡大。ただし、新興国へのコネクティッドTVとブロードバンドの普及は自社のコントロール外にある。
● 2.2億の有料会員世帯による他の世帯へのアカウント共有が横行。実際にはプラス1億世帯が(支払いなく)視聴しているとみられる。
● ネットでの動画配信が主戦場となりつつある。既存事業者に加え、ケーブルTV専用チャンネルが本格参入を始めて競争が激化している。
● コロナ禍での需要先取りや景気停滞、インフレ進行、ウクライナ危機などマクロ環境の影響を受けている。
(出典)Netflix IR ”FINAL-Q1-22-Shareholder-Letter”より筆者要約

 ネットフリックスが弁明したように、動画配信事業者間での競争が激化しているのは事実です。例えば、Disney+は22年1~3月期に前の期より約800万世帯増と、傘下のESPN+やHuluとバンドルすることで驚異的な伸びを示しました。

 それだけではありません。成熟市場である米国では、「広告付き無料放送(FAST)」と「広告付き動画配信(AVoD)」が伸びています。コンサルティング会社Kantarのレポートによると、22年1~3月期では、ネットフリックスなどの「有料動画配信」の世帯普及率が0.2ポイント減の81.4%でほぼ横ばいなのに対し、FASTは0.9ポイント増の25.3%、AVoDは2.2ポイント増の20.2%とシェアを伸ばしました。

 この状況から目に浮かぶのは、成功体験を磨き続けるうちに企業が陥る「イノベーションのジレンマ」と「ローエンド型破壊」です。

 いったいネットフリックスに何が起こっているのでしょうか?