プリンスホテルが資産売却で身軽になっても、立ちはだかる「2つの高い壁」Photo:PIXTA

コロナ禍による宿泊需要の激減が、ホテル業界に戦略見直しを迫っています。中でも注目したいのが、国内ホテル大手の資産売却の動きです。今年3月に近鉄グループが8施設の売却を発表したのに続き、7月には西武ホールディングスが「ザ・プリンスパークタワー東京」を含む数十の施設売却を検討していると報道されました。果たしてこうした資産売却は、企業の経営にどのような影響をもたらすのでしょうか。(グロービス経営大学院教員 山口英彦)

ホテル資産の所有が
「苦境の原因」は本当か?

 ホテル業界は、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により大きな打撃を受けている業界の筆頭です。ただ、ホテル各社の業績はどこも壊滅的と思いきや、実は黒字の企業もあります。

 例えば、米マリオット・インターナショナル。20年12月期決算では、Gross Fee Revenuesと呼ばれる実質売上が前年比6割近くの大幅減少となりながらも、8400万ドルの営業利益を計上しました。

 マリオットが黒字確保できた理由として、「建物や土地といった有形固定資産を所有しない『持たざる経営』だったから」といった説明をあちこちで見かけます。確かに2020年時点でマリオットが世界で運営する7642軒のホテルのうち、いわゆる直営(自己所有もしくは賃貸)は66軒のみですから、マリオットが「持たざる経営」なのは事実です。

 これを鵜呑みにしてしまうと、「これまで自社でホテル不動産を所有してきた近鉄や西武は、資産売却すれば事業リスクを大幅に軽減できる」と考えがちですが、実は不動産の所有だけがホテル事業のリスクなのではありません。

 どういうことなのか。その理由を解説する前に、まずはマリオットとプリンスホテルの事業モデルの違いを理解する必要があります。ここでは「バリューチェーン」を使って考えましょう。