交換式バッテリーを使ったEVバイク普及に向けた動きが始まっている。それが、実証実験の「e(ええ)やんOSAKA」だ。

 大阪大学吹田キャンパスで22年7月4日、「eやんOSAKA」の成果報告と、バッテリー交換式EVバイクの社会実装に関して報道関係者向け説明会があった。

「eやんOSAKA」で利用した、交換型バッテリー「eやんOSAKA」で利用した、交換型バッテリー 写真提供:eやんOSAKA説明会事務局

 登壇したのは、自動車、トラック・バス、二輪車それぞれのメーカーでつくる業界団体、日本自動車工業会の副会長でヤマハ発動機の社長である日高祥博氏をはじめ、大阪府、大阪大学、ローソン、経済産業省などの関係者だ。

 発表によると、実証実験は20年後半から22年前半までの第1期~第6期(半年単位)で行い、利用者は大阪大学の学生と教職員など130人で、車両とバッテリーを月額1000円で貸し出した。バッテリー交換所は、大学内に2カ所と周辺のローソンに10カ所とした。

 利用者の内訳は、二輪経験がない人が全体の55%を占め、利用動機としては「EVは環境にやさしい」とか「新しいものに触れたい」という意見が多かった。

 走行実績は毎月100~300kmで、利用されたバッテリー交換所は大学施設内が最も多かった。

 利用者の評価としては、便利と答えたのが78%、電動二輪車への興味が高まったと78%が回答し、電動二輪車の購入意向では69%が買いたいという結果になった。

 バッテリー交換の手間については、79%が満足と答えたが、航続距離の満足度は46%にとどまった。

 発表内容を見る限り、利用者も参加した関係者側も、おおむね「ええやん」という感想を持っているようだ。

2022年秋から東京と大阪で
社会実証見据えた最終的な実証へ

 そもそも、バッテリー交換型EVバイクについては、ホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハの国内二輪大手4社が、電動二輪車のあり方について日本自動車技術会や日本自動車工業会などを通じて話し合いを進め、18年から業界内での具体的な地盤固めを始めていた。

 その流れで、19年4月には交換式バッテリーの標準化を具体的に議論する「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を立ち上げており、議論に基づいた実証の現場として設定したのがeやんOSAKAというわけだ。

 eやんOSAKAは、あくまでも実証実験であり、今回の成果報告をまとめたことでその使命を終え、これからは社会実装のステージに移行する。

 社会実装に向けた具体的な事業計画も進んでいる。

 全国でガソリンスタンドなどを展開するENEOSと二輪大手4メーカーは22年4月1日、共通仕様バッテリーの交換ステーションの運営を目的とした、Gachaco(ガチャコ)を設立した。出資比率は、ENEOSが51%で、ホンダ34%、カワサキ5%、スズキ5%、そしてヤマハ5%である。バッテリーを共通化することで、使用するのはEVバイクのみならず、小型4輪車、小型除雪機、小型配送ロボット、家庭用電源など多様な用途を想定している。これを、BaaS(バッテリー・アズ・ア・サービス)と定義付けている。

 実は、こうしたビジネスモデルについてはホンダがeMaaS(イーマース)構想という概念の中で、コマツや楽天などの連携を発表しており、Gachacoはこうしたホンダの事業とも連動する。ホンダの場合、交換式バッテリーを、モバイルパワーパック(MPP)と呼ぶ。

 Gachacoの出資比率から見て、初期に実用化するバッテリーはホンダのMPPが主体となることが予想される。Gachacoは22年秋から、eやんOSAKAで集積したデータや知見を踏まえて、大阪と東京で実用化を見据えた実証を始める。

人気の中大型バイクでの早期EV化は難しい
具体的な開発の方向性、いまだに見えず

 このように小型EVバイクについては、交換バッテリー式での事業化が進みそうだが、一方で中小型バイクのEV化について“道半ばからもほど遠い”と言わざるを得ない状況だ。

 東京都が21年12月に東京フォーラムで開催した「EVバイクコレクション in TOKYO 2021」では、小池百合子都知事も革ジャン姿で現場視察に訪れ、展示されたカワサキのEVプロトタイプバイクに座ってライディングポーズを取るなど、EVバイク普及に向けたアピールに務めていた。

「EVバイクコレクション in TOKYO 2021」に参加した小池百合子都知事「EVバイクコレクション in TOKYO 2021」に参加した小池百合子都知事 Photo by Kenji Momota

 東京都は30年までに都内の温室効果ガス排出量と都内エネルギー消費量を2000年比で半減し、再生可能エネルギーによる電力利用割合を50%とする、「カーボンハーフ」という施策を進めている。

 だが、筆者が二輪メーカー各社の関係者から直接話を聞くと、EVバイクの普及促進の主体は当面の間は小型EVバイクであり、市場で人気の高い中型・大型バイクのEV化については「航続距離が短いと商品として成立しない」「航続距離を増やすために電池容量を増やすと、ユーザーが求める運動性能が実現できない」といった声が多い。

 そのため、「現状で、いつ頃、どのような形で中大型EVバイクを実用化できるかのめどはまったく立っていない」というのが大手メーカー各社の共通の見解だと感じた。

 22年3月に開催された国内最大級の二輪車関連イベントである、東京モーターサイクルショーでも二輪車のEV化について各方面の関係者に取材したが、中型・大型バイクの商用化については、「先行き不透明」と答える人がほとんどだった。

 国が21年6月に示した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、成長が期待される14分野の中に、「自動車・蓄電池」がある。

 その中で、二輪車関連政策では、「まずは現在の性能でも利用可能性を有する短距離移動の用途から二輪車の電動化を推進していく」とし、小型EVバイク向けのバッテリー交換ステーションの整備も推進するとしている。

 このように、二輪車の場合、航続距離を稼ぐために搭載バッテリー量を大きくし、充電効率を上げるために急速充電器の高出力化を進めるといった四輪車の技術進化とは違う道をたどりそうだ。