安倍氏が生んだ「自民党左傾化」の流れが
新たな時代の萌芽をもたらした

 第1次政権時と比べると、第2次政権以降の安倍氏は熟練の大政治家に変身した。その一方で、高支持率の維持のために四方八方に気を使い、どこか窮屈で、息苦しそうにも見えた。

 そんな第2次安倍政権の功績は、大きく二つあると私は考える。

 一つ目は、世論への応答性が高かったことで、本来は左派野党が取り組むべき「労働者への分配」などの「社会民主主義的」政策を実現したこと。二つ目は、この戦略によって左派野党の居場所を奪って壊滅させたことである。

 岸田文雄首相が率いる現政権も、この流れをくんで「弱者・高齢者・マイノリティー・女性の権利向上」「教育無償化」「外国人労働者の拡大」など、“左右”に大きく広がる政策を展開している。

 一連の施策によって左派野党は完全に存在意義を失い、先日の第26回参議院選挙で惨敗した(第307回)。

 このことは、安倍氏が生んだ「自民党左傾化」の流れによって、伝統的な「保守(右派)VSリベラル(左派)」の対立軸が、現代社会にそぐわないものになった結果だといえる。

 一方その裏側で、新たな対立軸も生まれている。筆者の見立てでは、今の自民党の「対抗勢力」は、左派野党や政治家ではなく、市場での競争に勝ち抜いて富を得ようとする人たちの集団になりつつある。具体的には、SNSで活動する個人、起業家、スタートアップ企業・IT企業のメンバーなどである。

 彼らは政治への関心が薄い。「勝ち組」を目指す人たちにとって、格差是正は逆効果になるからだ。彼らの関心事は、日本のデジタル化やスーパーグローバリゼーションを進めることである。
 
 こうした層は、政治の動きが社会の進化を妨げないよう、現政権を「Too Little」「Too Late」「Too Old」と厳しく批判する政党があれば、その党を時と場合に応じて支持する(第294回)。

「デジタル・イノベーション党」とでも呼ぶべき対抗勢力の規模はまだ不十分だが、日本社会における対立軸の構図は変わりつつある。この新たな時代の萌芽こそが、安倍氏が日本に残したレガシーだといえる。