ラストのオチがなんとも切ない「ごんぎつね」や白馬の運命が胸を打つ「スーホの白い馬」など、国語の教科書には大人になった今こそ読み返したい珠玉の名作の数々が掲載されている。長らく国語教育に携わった著者が、授業では教わらなかった読み方や作品背景をひもとく。本稿は、山本茂喜『大人もときめく国語教科書の名作ガイド』(東洋館出版社)の一部を抜粋・編集したものです。
国民的な教材として読み続けられている
本当に悲しいラストシーン
ごんぎつね
新美南吉
その中山から少しはなれた山の中に、「ごんぎつね」というきつねがいました。ごんは、ひとりぼっちの小ぎつねで、しだのいっぱいしげった森の中に、あなをほって住んでいました。そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出てきて、いたずらばかりしました。
畑へ入っていもをほり散らしたり、菜種がらのほしてあるのへ火をつけたり、百姓家のうら手につるしてあるとんがらしをむしり取っていったり、いろんなことをしました。
(光村図書 小4)
ごんは、ふとしたいたずらで兵十のうなぎを盗みました。
ある日、ごんは、兵十のおっかあが死んだことを知ります。「じぶんがうなぎを盗んだから、死んだに違いない」そう思い込んだごんは、そのつぐないに、せっせと栗や松たけを兵十に届けます。
そうとは知らない兵十は、家に忍び込んできたごんを見つけ、鉄砲でうちました。そして、土間に栗が置いてあるのを目にしたのです。「ごん、お前だったのか。いつもくりをくれたのは」
ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
本当に悲しいラストシーンです。「ごんぎつね」が国語の教科書に初めて載ったのは、昭和31年。昭和55年にはすべての国語教科書に掲載されるようになりました。まさに国民教材として読み続けられているのも、しみじみとした切ないお話が好きな日本人にぴったりということでしょう。
季節は秋。もずの声。すすきの穂に光る雨のしずく。萩の葉。いちじくの木。そして彼岸花。月夜に、松虫の鳴き声。ごんが兵十に届けるものは、栗に松たけです。
まさに古きよき日本の山里の秋が描かれています。それはこの切ない物語の舞台としてまことにふさわしいと言えるでしょう。