武器としてデジタルを使うことによって、従業員の拘束時間の長い業務の無駄を取り除くというのが基本的な考え方です。ここで言うのは「同じ伝票の数字を別のシステムに入力し直す」とか「スケジュール管理ミスや発注ミスで起きる追加の手間を減らす」とか、そういった従業員の負担になっている無駄な業務の話です。

 今、世の中ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が話題ですが、なぜ急にDXが可能になってきたかというと従業員も取引先も顧客も皆、スマホを手に持つ時代になったからです。なので業務プロセスをスマホ中心に組み直したら、いろいろな面で業務遂行に必要な仕事量が減り始めたのです。

 特に中小企業の場合は、人が採れずに一人一人の従業員に負担がかかっているケースが相対的に大きくなっているので、DXの導入効果も逆に大きいものです。

 同じ賃金でも、従業員の働く時間が短くなれば満足度は上がります。仕事に余力が生まれれば、他のことをする時間も確保できる。長期的には、賃金を変えずに新しい投資に従業員を振り向けることができる。つまり「ステルス賃上げ」の本質は、「働き方改革による生産性向上」ということなのです。

 問題は、中小企業がどうやってそれを実現するかということですが、もし今回の「インフレ特別手当支給」の記事で興味が湧いたとしたら、「サイボウズ」という会社の商品がどのようなものなのか見てみると面白いかもしれません。「インフレ手当」を導入したサイボウズは、実は「ステルス賃上げ」をするための武器を中小企業に配っている会社だったのです。

 何か最後はサイボウズの宣伝のようになってしまいましたが、私は別にサイボウズからは何の手当ももらっていません。あしからず。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)