小さなぬいぐるみが溢れんばかりに積み上げられているクレーンゲーム。適当に操作すれば景品(プライズ)をゲットできそうに見えるが、意外とうまくはいかないものだ。クレーンゲーム歴30年の筆者が、山積み設定のクレーンゲームの難しさと、条件が揃った時にのみ使える技「ナイアガラ落とし」について物理の観点から解説する。※本稿は、小山佳一『クレーンゲームで学ぶ物理学』(インターナショナル新書)の一部を抜粋・編集したものです。
30年以上あるぬいぐるみの山積み設定
チャレンジしたくなるワケ
私はよく、鹿児島市内のゲーセンに散歩に行って数々のゲーム機やプライズの設定を見てまわります。実際にプレイはせず、「物理を使ってどうやってプライズをゲットできるかな」と考えを巡らせる、いわゆるイメージトレーニングを楽しんでいることも多いです。
こうしたゲーセン散策は昔から行っていますが、今も昔もほとんど変わらないクレーンゲームの設定というのがあります。
それは、フィールド上に小さなぬいぐるみが山積みされている設定です。
私がクレーンゲームを始めた1991年頃(第1次マイブーム/主に愛媛県松山市でプレイ)も、山積みぬいぐるみの設定はありました。クレーンゲームに本格的に「ハマった」2006~2009年頃(第2次マイブーム/主に宮城県仙台市でプレイ)にも、山積みぬいぐるみの設定はありました。2022年秋から始まった第3次マイブームの今でも、鹿児島市内外のゲーセンで、この設定をよく見かけます。
ただ、第1次マイブームの頃に比べて、今はプライズが小さくなった感じです。ぬいぐるみの代わりに、小袋に入ったお菓子がフィールド上に山積みされているものも近年では見かけます。
山積みになったプライズは一見すると不安定に置かれているように見えます。
しかし、プライズの状態をよく見ると、必ずしも不安定な状態とはいいきれません。小さいぬいぐるみたちの足や腕、耳、景品タグなどが、お互いに引っ掛かり合っている場合も多いのです。たまに、子どもの拳くらいの小さなぬいぐるみが、落とし口付近で今にも落ちそうな不安定な状況にあるのを見かけますが、これは狙い目です。「今がチャンス!」とチャレンジしたくなります。
ぬいぐるみゲットの要
ポテンシャルの山と谷
それはちょうど、図表44の(a)で示したクレーンゲーム機の断面概略図にある、プライズ(1)のような状態です。
このように今にも落ちそうだけどちょっと引っ掛かっている状態を見ると、ゲーム機に向かって、心の中で「あっ、ポテンシャル!(正確にはポテンシャルエネルギー)」と、つぶやいてしまいます。そして脳内で、図表44の(b)のような、ポテンシャルの山(ポテンシャルエネルギーが高い)と谷(ポテンシャルエネルギーが低い)の連続したグラフをイメージしています。
重力のはたらく空間では、質量(重さ)のある物体を基準点A(地面)から、ある高さの位置Bに持ち上げる仕事をすれば、Bに位置する物体には基準点Aで仕事をする潜在的能力(ポテンシャル)が蓄えられる(物体が仕事をする能力を持つ)と見ることができます。これがいわゆる「ポテンシャルエネルギー」もしくは「位置エネルギー」と呼ばれるものです。