カショギは、1980年代からオサマ・ビン・ラディンを取材してテロ行為をやめるように説得したこともあったとされるほか、大統領時代のドナルド・トランプを批判したことで、サウジアラビアの権力者から出版やテレビ出演を禁じられたこともあった。彼は在トルコ・サウジアラビア総領事館を訪れた際に行方不明となり、施設内で殺害されたとみられているが、そのスマートフォンもペガサスに感染していたことが明らかになっている。

個人を対象とするサイバー攻撃の脅威

 しかし、カショギの例は氷山の一角にすぎなかった。実際には国際的人権団体アムネスティ・インターナショナルのセキュリティーラボなどの調査によって、世界各国の数百人に及ぶ企業経営者や宗教家、学者、NGO職員、大統領および首相、閣僚を含む政府関係者と、フィナンシャル・タイムズ、CNN、ニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、AP通信、ロイターのジャーナリスト180人以上がNSOグループの攻撃対象となっていたことが判明。そのうちの67台のスマートフォンについて調べを進めた結果、23台が実際にペガサスに感染しており、14台に対して侵入を試みた跡が確認されたという。さらに、フェイスブック(現メタ)が提供するメッセージアプリの「WhatsApp」(ワッツアップ)を通じて約1400台のスマートフォンに攻撃を仕掛けたことも分かった。

 こうした一連の出来事から、アップルは自社製品のユーザーに対する監視や標的設定に対する責任を問うためにNSOグループとその親会社を提訴しており、メタもWhatsAppの一件から同様の訴えを起こしている。アップルがNSOグループを名指しで非難するのは、過去にこのような経緯の結果として、事態を深刻に受け止めていることの証しなのだ。