『鎌倉殿』北条氏、徳川家康…偉人たちが読んだ「帝王学」の書に学ぶリーダーの極意Photo:PIXTA

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で主人公・北条義時の長男、泰時も読んでいた中国の古典『貞観政要』。唐2代皇帝・太宗による政治の要諦がつづられた書物で、世界最古のリーダー論として、鎌倉将軍、徳川家康、明治天皇といった偉人たちに読み継がれている。現代のリーダーたちにも参考になることが多いはずだ。今回は『超約版 貞観政要』から、ビジネスパーソン必読のエピソードを一部抜粋・再編集してお届けする。

ダメな組織には忠臣はいても良臣がいない
「乃(すなわ)ち告ぐる者、直(ちょく)ならず」(納諫篇直諫附)

 貞観六年、尚書右丞(しょうしょうじょう)の魏徴(ぎちょう)が、職権を使って親族に便宜を図っていると告げ口をする者がいました。太宗(たいそう)が御史大夫(ぎょしたいふ)の温彦博(おんげんぱく)を派遣して調査をさせたところ、事実無根であることが判明しました。

 ただ、温彦博は言います。

「魏徴に私心がないことは明らかですが、噂されることには当人にも責任があるのでしょう」

 そこで太宗は温彦博を通じ、魏徴に伝えました。

「お前は今まで私に対して、何百ものよきアドバイスをしてくれている。だから今回の疑惑など気にしないが、これからは誤解を受けぬよう、言動に気をつけてほしい」

 後日、魏徴は参内した際、太宗が「何も変わりはないか?」と聞くと、魏徴は「大きな問題がある」と言います。

「先日私は温彦博を通じ、『言動に気をつけろ』との指示をいただきましたが、これこそ大問題です。

 私はずっと君臣は一体であるべきとは聞いていましたが、うわべをよくして疑惑を招かぬようにしろとは聞いてきませんでした、もしそのように君臣がうわべを繕い、本心で会話しないようになってしまったら、この国はどうなるのでしょう?」

 これには太宗も、愕然(がくぜん)として弁解します。

「この前の言葉は、私も後悔していたのだ。私の寛大さが足りなかった。これまで通り、お前は何も気にせずに思ったことを言ってほしい」

 魏徴は頭を下げて言いました。

「私はこれまでずっと正直さをもって、この国に身を捧げてきました。

これからも何も隠し事せず陛下にお仕え申し上げます。そこで陛下には私を『忠臣』ではなく、『良臣』として仕事をまっとうさせていただきたいのです」

「忠臣と良臣とは、どう違うのだ?」

 太宗の問いに、魏徴は答えます。

「良臣とは君主から認められるだけでなく、自身も世間からの評判を獲得し、子孫の代までも名誉を残すことができます。

 一方で忠臣とは、君主が悪に陥れば、自らが誅殺されることもありえます。その家は滅び、ただ『そういう家臣がいた』という名前だけが残る存在となるでしょう。

 そうしますと忠臣で終わるか、良臣として後世に名を残せるかは、大きな違いになってくるのです」

 太宗は言いました。

「その違い、よくわかった。私は決して忘れず、よき統治を行なうよう努力しよう」

 魏徴は褒美として、絹二百匹を賜りました。

訳者からのアドバイス
魏徴の言葉は、風通しのよい組織をつくることがいかに大切かを教えてくれます。かつてアップルを追い出されたスティーブ・ジョブズが、復帰後に徹底したのも「社員たちと本音で話をすること」でした。その後、かつて短気で有名だった彼が、「世界最高の経営者」という評判を手にしていくのです。