分断による対立は70年代から徐々に緩和されてきた

 よくジャーナリストや評論家が何かにつけて「最近、ニュースや新聞を見ていると、社会の分断が進んでいてびっくりしませんか」的なことを言って人々を脅している。しかし、「分断」の度合いでいえば、学生運動などが盛んだった時代の方が絶望的に深い。

 1960〜70年代、若者と高齢者、保守と革新、企業と労働者など社会のあらゆるところで分断が深まって、時に暴力にまで発展するような激しい対立を引き起こしていた。反政府活動も盛んで大企業に爆弾テロをするような人々もいた。デモや抗議活動も今よりもっと過激だった。

 当時のことを、歴史の授業では「一億総中流」なんて教わるので、日本人がみんな一つにまとまって分断がない平和の時代のような錯覚を受けるかもしれない。しかし、それはよくある「過去の美化」であって、当時はマイノリティに対する差別や偏見も今と比べものにならないほど深刻だった。「中流」に入らない貧しい人もたくさんいて、さまざまな社会問題のトリガーになっていた。

 そういう殺伐とした時代に比べたら安倍元首相の時代、さらにはもっとさかのぼった小泉純一郎元首相の時代などは、だいぶ「社会の分断」が弱まっていたのである。

 それを示すデータがある。NHK放送文化研究所が1993年から参加している国際比較調査グループISSP(International Social Survey Programme)という調査だ。

 これは、世界約40の国と地域の研究機関が、毎年1つのテーマを設定して共通の質問文で調査を行うもので、長期的に同じ質問をするので人々の意識の変化がつかみやすい。その中で「グループ間の対立意識」という項目がある。1999年から2019年の20年間で「経営者と労働者」「貧しい人と豊かな人」「若者と年配の人」が対立しているかという意識がどう変化したのかを調べたもので、このように結論づけられている。

<いずれのグループ間でも、『対立している』が20年前(99年)と比べて減少しており、グループ間の対立意識は弱まる傾向がみられた>(一般社団法人 中央調査社 中央調査報No.751

 例えば、「若者と年配の人」について、1999年は「とても強く対立している」「ある程度強く対立している」を合わせると32%だったが、20年後の2019年これは22%に減少している。また、「貧しい人と豊か人」が「対立している」と考える人も1999年には33%だったが、2019年には27%になっている。

 しかし、「分断ガー」の皆さんの「正史」では、小泉・竹中路線の新自由主義とアベ政治によってこの20年で日本は取り返しがつかないほどズタズタになって、社会の分断も深くなってしまった…ということになっているのだろう。