生前対策として
実家を売る・貸すとどうなる?

 もちろん、相続税の納税資金を準備するためとは言え、親の意向や生活を無視して実家を売ったり、貸したりはできない。親がどうしたいか、また兄弟姉妹がいればどうしたいか、どうすべきかを話し合うのが先決だろう。それによって、利用できる税制優遇や将来の相続税の負担も異なってくる。

●実家で親と同居する場合
 例えば、一人暮らしになった親が心配で、実家で同居するというケースもあるだろう。将来、相続が発生し、亡くなった親所有のその実家の宅地を相続したとしよう。一定の要件を満たせば、宅地の相続税評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」の適用が可能だ。

 要件の一つに、その宅地の相続人は「被相続人と生計を一にしていた親族」というのがあるが、「生計を一」とは必ずしも住民票の住所地が同じであることは要しない。例えば、親の医療費や水道光熱費などの生活費を負担・分担して暮らしていたかどうかが重視されるので、領収書や口座引落し履歴は保存しておこう。週末だけ親と暮らし、親の医療費や生活費を払っていれば認められる場合もある。

 また、二世帯住宅に増改築するなら、登記方法によっては、23年12月31日期限の「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」の利用も可能。ただし、相続人が複数いる場合、将来の相続配分に不公平が生じないよう配慮が必要だ。

●実家を売却する場合
 親が子どもの家へ転居して同居、老人ホームへの入居などを決心して、実家を手放すケースもあるだろう。住まなくなった日から3年目の12月31日までに第三者へ売却すれば、譲渡所得税が大幅控除になる可能性がある。「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」だ。

 また、親が10年以上保有してきた実家なら、「10年超所有軽減税率の特例」も適用できる。「長期譲渡所得」税額をより低税率で計算でき、課税長期譲渡所得金額が6000万円以下なら10.21%、6000万円超なら(課税長期譲渡所得金額-6000万円)×15.315%+600万円。上記3000万円特別控除も併用可能だ。

●実家を賃貸する場合
 親が老後の生活費や老人ホームでの費用に充てるため、実家を賃貸にしたいというケースもある。家屋を取り壊して所有権や借地権を持つ宅地のみ「貸宅地」にする場合、宅地上の家屋を賃貸アパートなどにする「貸家建付地」の場合があるだろう。

 いずれも、将来の相続税は自用地より低く抑えられる。なぜなら、賃借人がいれば賃貸用として使用が限定されるので、相続税評価額も低くなるからだ。また、「小規模宅地等の特例」の併用も可能で、「貸付事業用宅地等」として要件を満たせば、200平方メートルまで相続税評価額が最大50%減となる。ただし、相続開始3年以内の新たな賃貸は不可だ。

 では、家族で話し合いもできず、生前対策もできずに相続が発生したら、どうすればいいだろう?